Facebookが2021年10月28日に社名を「メタ」に変更したと発表してから、1年が経つ。10月26日に発表した2022年7~9月期決算は2四半期連続の減収で、同社の株価は年初から約60%下落。投資家からはメタバース部門のリストラを求める声も高まっている。
メタの社名変更を機にメタバース分野への投資が活発化した中国も、「規制強化」という爆弾を抱えており、メガIT企業は慎重な態度に終始している。
NFTの売れ残り生じる
中国でメタバース分野に投資してきた企業と言えば、世界最大のゲーム企業テンセント(騰訊)だ。メタバースの実現に最も近い一社と言われる米ゲームプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」に2019年に投資したほか、テンセント傘下企業で人気ゲーム『フォートナイト』の開発元であるエピック・ゲームス(Epic Games)が21年春、メタバースの構築に向けソニーなどから10億ドル(約1450億円)を調達するなど、ゲーム向けのエコシステム作りはメタをも先行している。
同年8月には、中国で初めてのNFT(非代替性トークン)マーケットプレイス「幻核」を開設。多くの著名IP(知的財産)とコラボし、にぎわいを演出した。
だが、「幻核」は今年8月に運営を終了。テンセントは22年4~6月決算で上場以来初の減収となり、「核心戦略に重心を置くため」にNFTマーケットプレイスを閉鎖したと説明したものの、額面通りに受け止める向きはない。中国政府の規制を順守しながら成長することが困難だと判断し、撤退したのが真相とみられている。
NFTについて中国では明確なルールが存在しないが、暗号資産取引が禁止されていることを受け、関連業界はNFTを「資産性のないデジタルアート」と位置づけている。テンセントの「幻核」は自主規制を徹底し、NFTを他者に送る機能を持たせていない。「NFT=投資商品」と考え飛びついたユーザーは転売できないことに失望し、6月ごろから発行したNFTの売れ残りが生じていた。
テンセントの劉熾平総裁は昨年11月、「中国当局はメタバース関連技術の発展を応援しつつ、ユーザーへの提供にあたって規制を設けるだろう」と、規制を強く意識していることを示唆した。
テンセントは他のメガITと比べて中国政府との距離が近く、創業者の馬化騰(ポニー・マー)氏は中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)代表でもある。NFTマーケットプレイスからの撤退は、「危ない橋を渡らない」との意思表明と受け止められ、NFTが今後規制強化の対象になるとの憶測も呼んでいる。
バイトダンスはPICOの海外販売に注力
一方、テンセントとの争奪戦の末に2021年夏にVRデバイスメーカーの「PICO Technology」を買収し、「メタバース大戦」に名乗りを上げたのが、ショート動画「TikTok」で世界に名を知られるようになったバイトダンス(字節跳動)だ。PICOの買収額は公表されていないが、業界では15億ドル(約2200億円)に上ると推測されている。
同社は今年10月、コンシューマー向けVRヘッドセット「PICO 4」とビジネス向けVRヘッドセット「PICO 4 Enterprise」を発売した。日本をはじめ海外展開にも力を入れ、PICO4はメタの「Meta Quest 2」の競合製品になる。
SNSではFacebookがTikTokに押されているように、メタのメタバースビジネスも今後、PICOの圧力にさらされることになるだろう。
ただ、バイトダンスのプロダクト・戦略副総裁の朱駿氏は昨年11月に行われた中国メディアのインタビューで、「AR/VRはオフィスワーク、学習、動画、エンターテイメントに導入できると期待しているが、『メタバース』と関連付けたものではない。メタバースは大きすぎ、抽象すぎる概念だ」と慎重姿勢を強調した。
テンセントもバイトダンスも、実際にはメタバースを非常に有望な分野とみなしているだろう。だが、中国政府はIT企業がデータや富を独占していると批判し、メタバースの重要な要素であるNFTも先行きが見通せない。そもそも2社は、メタバースがビジネスとして軌道に乗るのは、数年先になると見ている。当面はできるだけ目立たない形で投資を続け、面倒ごとに巻き込まれるのを避けたいというのが本音のようだ。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37