能とプレゼン 小川仁志さんは「世阿弥の極意に学べ」と指南

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思い切りよく

   商品や企画のプレゼンにせよ、一般的な講演にせよ、確かにエンタメの要素はある。私もたまに初対面の人たちを前に話すことがあるので、飽きさせないよう楽しませる努力はしている。とはいえ「プレゼンはエンタメ」と言い切るには勇気が要る。畑違いの世阿弥を援用したことを含め、思い切りのよさが本作の売りだ。だから歯切れもよい。

   世阿弥は室町時代初期の能役者にして能作者。演技も脚本も制作もこなす、いまで言えばマルチプレイヤーだった。足利氏の庇護の下、父の観阿弥とともに能を洗練し、芸術の域にまで引き上げた功労者とされる。

   とはいえ600年前に生きた人物から、現代に通じるプレゼンの極意を引き出すのは力技だ。そこでは「序破急」「秘すれば花」といった、聞けば分かったような気にさせてしまうパワーワードが重要な役割を果たす。

   聴衆を知り、緩急をつけ、余韻を残して終わる...言い古されたプレゼンのイロハではあるが、世阿弥の表現と重ねることで納得感が増す仕掛けだ。読者(相談者)は新鮮な驚きとともに「さっそく使ってみよう」と思うだろう。

   いまや国際企業のトップともなれば、身ぶり手ぶりは当たり前、ステージ上を動き回りながら英語でプレゼンする時代だ。その手の指南書も多いのだろう。表情の豊かさなどは舞台役者も顔負けで、かえってウソ臭く感じることさえある。

   いっそ能面でもつけたら、話がもっと耳に入るのではないか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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