仕事減、税負担増...廃業もやむなしか
甲斐田さんが危惧している問題が、もうひとつある。2023年10月に施行が予定されている「インボイス制度」(正式名称:適格請求書等保存方式)だ。取引の正確な消費税額と消費税率の把握を目的としている。
甲斐田さんは、同制度への反対運動を行う有志グループ「VOICTION」立ち上げ人のひとりだ。ツイッターで運動への協力を呼び掛けたり、自ら国会議員に陳情したりと、精力的に活動している。
なぜ、制度を問題視するのか。背景には、声優の収入実態が深く関わっているようだ。
VOICTIONが実施した「声優の収入実態調査」(回答数260件、22年9月29日発表時点)によると、「年収300万円以下」の回答が72%にのぼっており、1000万円以上は5%にとどまった。20代、30代の約半数は100万円以下と、厳しい状況に置かれているという。
VOICTIONは、多くの声優は消費税の納税義務がない「免税事業者(課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円以下の法人や個人事業主。非課税事業者とも)」に当たると推測する。インボイス制度は、その免税事業者に大きな影響を与えるのだ。
インボイス(適格請求書)は、課税事業者のみ発行できる。免税事業者と取り引きし、インボイスではない請求書を受け取ると消費税の控除が受けられず、納税額が増える。つまり、多くの声優が免税事業者だと考えられるなら、報酬を支払う側は消費税控除の対象から外れることになる。
VOICTIONが、フリーランスを対象に行った「インボイスに関するアンケート」(回答数183件、22年9月29日発表時点)によると、所属している事務所や取引先などから次の話があったと明かす回答者が出てきている。
・インボイスの発行がない場合、今後の取引をしないという通告が来た。
・課税事業者にならないと、その分値引き(※請求時、本体価格に消費税を組み込む)。
声優側は、申請して課税事業者になると税負担が増え、免税事業者で居続けると仕事が減ったり、値引きを強いられたりするリスクにさらされる。「廃業」の選択肢もちらついてくる。