欧州の王室で、正式な王族の人数を限定する動きが目立っている。デンマークでは、女王の孫4人が「王子」「王女」の称号を失う見通しだという。英国でもスリム化が進むのではないかとの報道が出ている。日本では、皇位継承者の数が少ないことがしばしば問題になっているが、欧州の王室は事情が異なるようだ。
「普通の生活」が送れる
AFP=時事によると、デンマーク王室は2022年9月28日、女王マルグレーテ2世が4人の孫から王子、王女の称号を剥奪すると発表した。王室は理由として、女王の次男で王位継承順位第6位のヨアキム王子の4人の子が普通の生活を送れるようにすることや、欧州の他の国に倣った王室のスリム化を挙げている。
女王の長男、フレデリック皇太子の4人の子どもは王子、王女の称号を保持するが、16年の決定で、成年になってから領地を得るのは将来国王となるクリスチャン王子のみとなっている。
産経新聞によると、オランダは王室を君主の3親等までに限定。13年のウィレム・アレクサンダー国王即位に伴い、国王のいとこは王室から外れたという。スウェーデンでは19年、グスタフ国王が、ビクトリア皇太子の弟王子、妹王女の子供たち5人を王室から外すと発表した。
公務に費用がかかり過ぎ
BBCによると、スウェーデンでグスタフ国王の判断は、王室の人数が多くなって公務に費用がかかり過ぎとの見方が広がっており、それを受けた措置とみられている。国王は自らの考えで決断したが、英国のチャールズ皇太子(当時)が「王室を整理」したいと考えているとされることも意識したと思われる、との見方も伝えている。
このため、エリザベス女王が亡くなったばかりの英国でも、変化が起きる可能性がある、との報道が出ている。チャールズ新国王は、皇太子時代から、王室のスリム化に積極的とみられているからだ。
コスモポリタンは10月3日、「新たな国王が即位したイギリス王室では、いくつかの大きな変化が起ころうとしているもよう――"王室のスリム化"を目指すチャールズ国王は、弟アンドルー王子の娘たち、ベアトリス王女とユージェニー王女から『王女』の称号をはく奪する考えがあるとみられている」という記事を配信している。
女性も王位継承が可能
日本でも過去には、皇族の人数を減らしたことがあった。『公家源氏――王権を支えた名族』 (倉本一宏著、中公新書)によると、源氏姓の生みの親となる嵯峨天皇(786~842)には、皇子女が50人もいた。このうち32人の皇子女は、源朝臣姓を賜り臣籍降下している。
理由は明らかではないが、子が多すぎて、国費を圧迫していた、自分の子を高級官人にして天皇を輔弼させようとした、多くの皇子女を臣下に降ろすことによって、皇位継承の候補者を削減しようとした、などの説がある。
同書によると、嵯峨源氏の一世では3人の左大臣を輩出した。しかし、その孫世代になると、中級役人程度になり、四世になると、ほとんどが消息不明になっているそうだ。
嵯峨天皇の例に倣って、その後、同様のケースで「源」が使われるようになった。どんどん増えて21流にもなり、どの天皇からかということを明示するために「清和源氏」などと呼ばれるようになったという。
戦後の日本では、11宮家が皇籍離脱となり、一気にスリム化した。そんなこともあり、現在は、皇位継承者となる男性皇族の数が少なくなっている。
産経新聞によると、欧州では女性も王位継承が可能。国王直系の「次の君主」の人数に不足はないとのことだ。
英国で「君主制維持」は62%
なお、デンマークでは、マルグレーテ女王の今回の決定に、ヨアキム王子夫妻が強く反発。デンマーク紙のインタビューで、「自分の子供たちが、こんな扱いを受けるとは」と不快感を表明した。通告は、公表のわずか5日前だったという。
産経新聞によると、女王はこの報道を受けて、「大きな動揺を与え、申し訳なかった」とする声明を発表したが、「将来、王室が時代遅れにならないようにするために必要な措置。私の在位中にやり遂げたい」と強調したという。
エリザベス女王の死去後、君主制についての報道は増えている。
ニューズウィークは9月27日、「チャールズやヘンリーの醜聞どころじゃない、英王室を脅かす『最大の危険』」という記事を配信。
「新国王チャールズ3世の下で君主制を維持することに賛成の国民は62%に上る」が、「王室の維持コスト削減を含め、英君主制に『進化』が必要なことは支持者も認めている。背景には、君主制は過去500年間の社会の流れと根本的に矛盾するという暗黙の了解がある。エリート主義、生まれの実力に対する優位、民主主義の欠如......君主制の本質は現代社会を否定する」と報じている。