転倒記 土屋賢二さんは転ぶまいと選んだタクシーの横で転んだ

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不運もネタに

   自慢ではないが、土屋コラムにはもう何度もだまされてきた。本作もどこかで「...そんな夢を見た」的などんでん返しがあるのではと、地雷におびえながら読み進む。その心配は無用で、というか別の心配が必要で、先生、本当にひどい転び方だったのだと理解した。打ち所が悪かったか、肋骨を折った疑いもある。まずは速やかな軽快をお祈りする。

   現実の悲劇を綴りながらも、引用部分でお分かりの通り土屋節は健在だ。自らの不運や災難さえも作品化できる図太さと根性。それなしに有力誌での連載が1260回も続くわけがない。コラムニストは繊細かつタフでなければ務まらないと知る。

   今回のタイトルは「寝ても覚めても」。冒頭にも同じ言葉がある。「何のことだろう」「何がだろう」と思わせておき、結語で種明かしをする古典的なスタイルである。要するに、寝ても覚めても、四六時中 痛みが続いているというわけだ。

   土屋さんは77歳。作中にも「高齢者に転倒は致命的だ」とあるが、日々の生活を一変させる手足の骨折は衰弱の引き金ともなる。「百余りある持病」にも十分ご留意いただき、読者の予想を超える冗談で末永く笑わせてもらいたい。

冨永 格

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