女性自身(9月20日号)の「武田砂鉄のテレビ磁石」が、日本テレビ系列の年中行事「24時間テレビ」を論じている。「もうさすがにいい大人なので...かじりつくようなことはなくなっていた」という武田さん。今年はたまたま地方出張と重なったことで、ホテルの部屋で「かじりつく」めぐり合わせとなった。放送は8月27~28日である。
「無味乾燥なビジネスホテルにはこの番組がよく似合う。その理由を明文化すれば、『あらかじめ予測されていたものが、そっくりそのままの形で存在している』という共通項だろうか」
昨今ビジネス級のサービスも向上し、あるべきものを備えた上で付加価値を増す備品があったり、連泊割引があったり。ただし、そのグレードはあくまで想定内である。
「部屋に入ってから出るまで頭をよぎった感想としては『まぁ、こんなもんだな』ばかりだ。で、ビジネスホテルで『24時間テレビ』をじっくり観たら、その感想も『まぁ、こんなもんだな』ばかりであった」
今年が45回目となった24時間テレビ「愛は地球を救う」は、1978年から毎年夏の週末に全国放送される大型番組。武田さんによれば、この番組は「いかに安定的に感動を作り上げるか」にエネルギーの多くを割いてきた。
「100人のうち1人が感動するものは狙わない。100人中100人を狙いたい。でも、難しいので90人を目指す、といった感じ。残り10人から『まだこんな感じでやってんの?』と言われようが構わない。そんな奴らは気にしない」
方程式では解けず
芸能人の「マラソン」がある。障がい者の特集企画がある。闘病中の有名人も登場する。しかし武田さん、そうしたお約束の数々に悪態をつきながら観ていたわけではない。正直、涙を流す直前くらいまでの気持ちにはなったそうだ。
「彼らが毎年のように作り上げてきた感動のノウハウは屈強なものだ。それでも涙を流すまでには到達しない...そもそも、感動って、ノウハウで作り上げられていいのだろうかと疑うから」
筆者はここで再び、ホテルの比喩に戻る。たまに高級ホテルに泊まる武田さんは、この快適さを作り上げるのは大変だろうと想像する。
「いいものを揃えたり、丁寧さを極めたりしても、それが客の心地よさに直結するとは限らない...決して方程式にはできないものこそがサービスの本質なのだ」
冒頭、24時間テレビをビジネスホテルになぞらえたのは、ホテルが便利さや快適さを追求するように、この番組も長年の経験から得たある種の「方程式」で感動を醸成するよう計算されているからだろう。
「数十分観ていると、その確かな狙いによって、こちらも感動し始める。でも、あからさまに狙われている以上、こちらの感情が、もうどうしようもないほどに揺さぶられることはない。それなりに感動しながら、『まぁ、こんなもんだな』で終わる」
意外な展開を
私はフィナーレで合唱される「サライ」は好きだが、この番組のどこかをしっかり観たことはたぶんない。武田さんが文字化してくれたので気が付いたが、心のどこかに「感動させるノウハウ」への警戒(その手には乗らないぞ)があったのかもしれない。作り手の計算通り感動するのも悔しいから、あえて距離を置いていた...可能性もあるのだ。
武田さんは無論、番組を否定してはいない。むしろ45年分の蓄積と、それをベースに毎回繰り出される創意工夫の数々に感心している。
「感動を量産するというのは大変な苦労があるのだろう。無味乾燥なビジネスホテルだって、あの心地よさを保つためにはたくさんの作業を必要とするはずなのだ」と。
同時に「いつも通りにやれば、いつも通りに仕上がる。でも、感動ってそんな作り方でいいのか、と問うのを忘れたくはない」と、自戒を装いながらチクリとやる。
ギネス級の長時間番組をビジネスホテルに重ねるのは酷かもしれない。感動量産のノウハウでわきを固めつつも、想定外の感動をもたらすことはできるはず。帝国やオークラは無理でも、シティホテル級のクオリティーは望めるかもしれないのだ。
もともと1回限りのはずが、予想以上の募金額(約12億円)などから毎年開催になったとされるイベント。計算できないハプニングやサプライズが1/24でも戻ってくれば、「いい大人」もかじりつくのではないか。
冨永 格