夫の失くし癖 菊池亜希子さんはポケットの存在を嘆くけれど...

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歓喜のファンファーレ

   家の鍵を失くしたことがある。駐車場の操作キーも道連れだった。もちろんスペアはあるが、防犯上よろしくない。車で往復した夢の島公園(東京都江東区)で落としたらしいのだが、43haもある園内のどこか見当もつかない。翌朝はやく、電車で公園まで赴き、前日の行動を思い出しながら園内を同じ道順で散策した。

   数分間休んだはずのベンチわき、雑草の上で見慣れたキーホルダーを見つけた時は、それこそ「パンパカパーン」だった。喜びと安堵、己の不注意への憤り、二度と失くすまいという決意...それらが同時に爆発したときの不協和音である。

   クルマにせよ家にせよ、鍵の行方不明は痛い。個人情報を固めたようなスマホも辛いが、個人情報さえ記していない鍵は、向こうから名乗り出ることは決してない。

   菊池さんのこのエッセイが読ませるのは、夫を突き放しながらも一緒に気を揉んでいる様子が正直に書かれているからだろう。「もう自分のことは信用しないほうがいいよ」といったアドバイスや、小さな鞄を持つべきだという指摘は、まるで私に言われているような気がした。

   末尾は「ポケットにしまった」で切るほうがお洒落かもしれない。ただ、万人向けには作品通りのオチが無難。もちろん正誤ではなく、好みの問題である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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