東京五輪の汚職問題が急拡大し、2030年の冬季五輪パラリンピック開催を目指す札幌市の招致活動へ逆風が強まっている。同市の秋元克広市長は近くIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長と会談する予定だったが、「日程が合わない」などの理由でキャンセルされた。スポーツ紙も、「札幌開催は絶望的」と書き始めた。
訪問予定がキャンセル
札幌市の秋元市長は、2022年9月13日にIOC本部(スイス)訪問する予定だったが、同市は5日、訪問を見合わせると発表した。朝日新聞によれば、最終的なIOCの回答は、米国・ソルトレークシティーやカナダ・バンクーバーといった他の候補都市もあるなかで「いま会うのはタイミングが悪い」というものだった。
秋元市長は、バッハ会長が、東京五輪パラリンピックの記念行事で年内に来日する計画もあることから、「今後もIOCとの対話の機会は模索していきたい」と述べている。
しかし、JOC(日本オリンピック委員会)の山下泰裕会長は8月30日の東京での記者会見で、札幌五輪の招致実現について「機運が盛り上がらなければ厳しい」と指摘。関係者の間でも厳しい見方が広がりつつある。
疑惑は拡大する一方
スポーツ報知は7日、「30年札幌五輪招致、関係者が絶望視『もうできないのではないか』...東京五輪汚職事件余波 招致活動に逆風」という記事を公開した。
東京五輪汚職では、東京五輪・パラリンピック組織委員会のキーマンだった元理事の高橋治之容疑者が、AOKIホールディングスからの受託収賄容疑で逮捕され、さらにKADOKAWAからの受託収賄容疑で再逮捕。また、広告大手・大広からの不透明な資金も指摘され、五輪とカネをめぐる疑惑は拡大する一方だ。
同紙は、「招致自体もうできないのではないか。この状況ではスポンサーなんて集まらない」という招致関係者の悲痛な声を伝える。
さらに、五輪関係者からは「組織委の当時の幹部も監督責任、道義的責任が問われるのではないか。誰が(元理事の)高橋氏を選んだという話になる」との声も上がり、「(今後も不正が)芋づる式に出てきそうで怖い」という競技団体関係者の声も紹介している。
「1業種1社」ルール撤廃
今回の汚職事件について、東京スポーツは、ラグビー元日本代表の平尾剛氏(神戸親和女子大教授)に取材している。平尾氏は、東京五輪の歪みを以下のように指摘する。
「以前の五輪はスポンサーが『1業種1社』だったのですが、それを撤廃してたくさんの企業からスポンサーを募る仕組みの採用を、IOCに働きかけたのが高橋容疑者だった。もともと『1業種1社』というルールは、商業主義の過熱に歯止めをかける制度だったはずなのに、東京五輪では撤廃され、多くの企業、団体からお金が集まる大会になってしまった」
時事通信によると、東京五輪では、招致段階で過少に見積もった経費が肥大化。そのため、対応を迫られた組織委は、収入増のためスポンサー枠を相次いで新設した。それが口利きの余地を生んだという。
高橋容疑者は逮捕前、「スポンサーはどんどん増やした方がいい。そうすれば税金を使わなくなる」とスポンサー企業拡大の意義を強調していた。
当初は、「コンパクト五輪」「復興五輪」とされていた東京五輪。しかし、大会経費は約7300億円という見積りから、最終的に2倍の約1兆4200億円に膨らんだ。
増収策がスポンサー枠の新設だった。計画になかった「出版」分野などが設けられ、専任代理店の電通は「販売協力代理店」を必要とした。国内スポンサー68社から計画の4倍に当たる約3761億円を集め、高橋容疑者の貢献は大きいとされた一方、口利きビジネスを許す結果となったと時事通信は分析する。
30年の冬季五輪開催地は年内にも絞り込まれ、来年5~6月のIOC総会で決定する見通しだ。朝日新聞によると、札幌市の秋元市長は、東京五輪では招致段階からスポンサーを集めたのと違い、今回は招致が決まり組織委員会ができた時点で「初めてスポンサーを集める」仕組みになっているなど、透明性を強調するが、五輪への不信感と、札幌開催への逆風は当分収まりそうにない。