睡眠とAI 坂口孝則さんは「操られて健やかならそれもよし」と

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   MONOQLO 10月号の「空想ビジネスコンサル」で、経営評論家の坂口孝則さんが睡眠とAIの関係を書いている。現代人は睡眠時間までも人工知能に操られかけているが、それで健康を保てるならまんざら悪い話でもないと。コラムには〈親の怒声よりも説得力があるスマートウォッチの「早く寝ろ」〉という、秀逸な見出しが添えられた。

   「私の子どもの親はAIだなと思います」と、不思議な冒頭。意味するところがすぐ明かされる。スマホにたまる子どもの写真をGoogleフォトが勝手に整理し、長男次男を区別してベストショットを選んでくれる。坂口さんはそれを祖父母に送信するだけだ。

「大げさに言えば、私の子どもとの思い出はAIが作っています。考えてみればすごい時代です...私はAIに操られているのか」

   坂口さんはこの1年、左手首にスマートウォッチ(Fitbit)を付けて暮らす。Suicaが使えるなどの利点に加え、副次効果があるそうだ。それは睡眠時間の分析。就寝起床の時刻をかなり正確に表示し、しかも単なる横臥や浅い睡眠はカウントしないらしい。枕を変え、ドリンク剤を飲み、各種の良眠グッズを試したところ、数値に大きな変化はなかった。

「現時点での結論ですが、外に出て日光を浴びている日ほど深い眠りになり、机上の作業ばかりを繰り返すほど浅い眠りになります。さらに運動をして体に適度な疲労を与えればより良さそうです。これってすごく凡庸な結論ですよね」
  • スマートウォッチに「操られる」生活
    スマートウォッチに「操られる」生活
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戸外に出よう

   坂口さんはかつて、自衛隊出身者が〈体力の極限まで疲労していたので、不眠症にはなりようがなかった〉と回顧するのを聞いたという。

「よく短時間の睡眠でも大丈夫というショートスリーパーがいます...しかし多くの場合は幻想か誤解です。寝不足で頭の調子が悪い状態を自分のスタンダードにしているだけで、やはりちゃんと寝たほうが仕事も生活の効率も上がります」

   スマートウォッチには万歩計の機能もあり、運動不足を警告してくれる。

「現代人の視力は低下傾向にあると知られていますが、それはスマホやパソコンの見過ぎに加えて、日光を浴びていないゆえのビタミンD不足といわれています」

   40代の坂口さんは裸眼視力1.0程度を保ち、体重も若い頃から不変だという。それは「無理にでも外に出ているからかもしれません」。

   健康の動機づけをAIに頼る暮らしは、なんだか不自然で窮屈にも感じる。

「それでもAIに操られている人と、操られていない人を比べると前者の方が健康で効率的だという説があります。ならば操られてみましょうよ」

   なお本作の原稿は8月1日が締め切り。ところが左手首のFitbitが「早く寝ろ」と勧めるので、提出が翌2日になったそうだ。「花くま先生、すみません、AIのせいです」...花くま先生とはコラムに添える漫画の作者、花くまゆうさく氏のこと。漫画には、スマートウォッチの「案内」に狼狽するおじさんが描かれている。その内容は...

〈おはようございます。あと、5476回の睡眠であなたの寿命が来ます〉
冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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