オバマ元米大統領が2022年9月3日、エミー賞を受賞した。同賞は優れたテレビ番組の制作に関わった人に贈られるもの。動画配信サービス「ネットフリックス(Netflix)」のドキュメンタリー番組「グレイト・ナショナルパーク――驚きに満ちた世界」で、オバマ氏が務めたナレーションが高く評価された。それにしても、米国の元大統領が、なぜ「第二の人生」で、テレビ番組のナレーションを担当することになったのか。
日本でも見ることが出来る
「グレイト・ナショナルパーク」は、オバマ氏の案内で、世界各地の美しく広大な国立公園にスポットライトを当て、自然の素晴らしさを伝えるドキュメンタリーシリーズだ。4月から配信されており、日本でも見ることが出来る。
全5回で、一回が50分ほど。構成は以下。
〇おどろきに満ちた世界・・・アフリカの砂浜から日本の島々、そしてオーストラリアのグレート・バリア・リーフまで。手つかずの大自然の美しさにふれる旅へ出発しよう。
〇チリ領パタゴニア・・・急速に保護が進み、地球上で最も保護された場所のひとつになりつつあるチリ領パタゴニア。24の個性豊かな国立公園がある、その広大な土地にせまる。
〇ケニア、ツァボを観る・・・美しい自然をほこるケニアのツァボ国立公園。広大な大地には1万3000頭以上の象をはじめ、カバやサイ、サイチョウなど、さまざまな動物の姿があった。
〇米国モントレー湾国立海洋保護区・・・活気あふれるカリフォルニアの海岸線にあるモントレー湾国立海洋保護区。微妙なバランスのもとで成立している自然と人間の共存に着目する。
〇インドネシア、グヌン・ルセル・・・そこには、希少なスマトラトラなど、世界で最も絶滅(ぜつめつ)の危険が高いとされる動物たちがいた。
このラインアップだけ見ると、単なるネーチャー番組と思われるかもしれない。しかし、オバマ氏は各回の画面に、ラフな服装でナビゲーターとして登場。それぞれの公園の現状と、地球環境的な意義について、国民に呼びかける大統領のように熱心に語りかける。
地球の自然を守りたい
例えば、「パタゴニア」編では、概ねこんな感じだ。
「この公園のネットワークは、200種類以上の鳥類や哺乳類を絶滅の危機から守っています・・・恩恵を受けるのは野生生物に限りません・・・地球上の全生物が大きな恩恵を受けています。気候変動と戦う上で、この土地と植物は、スポンジのように二酸化炭素を吸収しており、南米最大の吸収源となるでしょう」
「自然は再生することができます。自然環境や野生生物は回復し、バランスを取り戻します」
「パタゴニアは、我々が自然と協力し、国立公園の真価を信じた時に、何ができるかを示す、素晴らしい例なのです」
他の回でも、「保護区は自然と野生生物にとって最後の砦です」「我々はもっと多くの土地を自然に返すべきです」「子どもや孫たちのために地球の自然を守りたい」と、繰り返し地球環境保全を強調する。
今回の「エミー賞」は、単におオバマ氏の「語り」のうまさだけではなく、「語り」の中身が持つ、視聴者へのメッセージ性も評価されたことがうかがえる。
過去と現在が「環境」でつながる
オバマ氏は2009年1月から 17年1月まで米大統領だった。09年12月には核軍縮への貢献でノーベル平和賞も受賞している。
ところが意外なことに、大統領をやめた直後の18年には、ミシェル夫人とともに映像会社を創設。Netflixと複数のドキュメンタリーとフィクション映像を製作する契約を結んだことを発表している。
第1作目の映画『アメリカン・ファクトリー』は第92回アカデミー賞で、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。
大統領時代のオバマ氏は、地球環境問題に熱心だったことで知られる。2015年の一般教書演説では、さまざまな地球規模の課題について論じたが、中でも環境が一番の懸念事項だと言明。「気候変動ほど将来の世代に深刻な脅威を及ぼす課題はない」と述べている。
今回のドキュメンタリー番組「グレイト・ナショナルパーク」でも、その思いは変わらないようだ。単にナレーターとして出演しているのではない。番組のエンドロールを見ると、オバマ氏の映像制作会社が、番組制作自体に関わっていることがわかる。過去の大統領時代の取り組みと、映像会社の経営者としての現在の仕事が、「地球環境」というテーマを通じてつながっている。