現代人が時間旅行し、戦国大名に召し抱えられ、乱世に巻き込まれる。このような「戦国時代へのタイムスリップ」を題材にした漫画作品は数多い。
ところで、こうした物語では「織田信長」が主人公を召し抱えたり、主要人物として登場したりするケースが多いと感じたことはないだろうか。
ドラマ化作品も
2011年から「週刊漫画TIMES」(芳文社)で連載され、テレビ朝日系列で実写ドラマ化もされている「信長のシェフ」(芳文社)。料理人の主人公は1568年の京都にタイムスリップする。現代の調理法で料理をしたところ、その腕前の評判を聞きつけた信長に雇われる。
2009年から「ゲッサン」(小学館)で連載されている「信長協奏曲」では、信長そっくりの顔を持つという設定の主人公が1549年にタイムスリップ。本物の信長から自身の代わりに生きるよう頼まれ、織田家をけん引することになる。こちらもフジテレビ系でドラマ化されている。
小説投稿サイト「小説家になろう」の作品を原作とするウェブコミック「戦国小町苦労譚 農耕戯画」(アース・スター エンターテイメント)では、農業高校生の主人公がタイムスリップ。その素性を怪しんだ織田家の兵士に取り囲まれるも、農業の知識に興味を持った信長に召し抱えられる。
こうした「タイムスリップした主人公が信長に遭遇」という展開は、インターネット上の一部では創作物の定番として認識されているようだ。漫画家の相島桃志郎さんは2019年6月30日、「一昔前にありがちな信長に会うタイムスリップ物だと思ったら別ジャンルだった漫画」というタイトルの短編漫画をツイッター上に投稿。
戦国時代にタイムスリップした主人公は、現代の知識を生かして織田家に取り入ろうと考え、信長に謁見(えっけん)する。すると、すでに何度も現代人の訪問を受けたことのある信長が手慣れた様子で「未来人お前で11人目なんだわ」と語りかけるのだ。ツイートは1万件以上の「いいね」を集めた。
信長自身がタイムスリップするパターンも
1万3000冊の蔵書を誇る「マンガソムリエ」の兎来栄寿(とらいえいす)さんに取材した。戦国時代へのタイムスリップを題材とする漫画において、主人公が信長のもとへ行くパターンは「非常に多いですね」と裏付けてくれた。
タイムスリップした主人公が信長と関係を持つ漫画作品として、ほかには
「タイムスキップ真央ちゃん」(小学館)
「戦國ストレイズ」(スクウェア・エニックス)
「戦獄姫」(Big Fields Publishing)
「天下一!!」(新書館)
「戦国ヴァンプ」(講談社)
「信長公弟記~転生したら織田さんちの八男になりました~」(秋田書店)
「斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!」('秋田書店)
「信長の妹が俺の嫁」(フロンティアワークス)
「本能寺から始める信長との天下統一」(KADOKAWA)
「Love Jossie 最推しは信長様!!~タイムスリップしたので、戦国時代で推し活はじめました!~」(白泉社)
があるという。
逆に信長自身が現代にタイムスリップしたり、あるいは「異世界」へ行ったりする作品も「内閣総理大臣織田信長」(白泉社)「僕のクラスの織田くんは」(講談社)「ドリフターズ」(少年画報社)など数多いと続ける。
信長の登場作品が多い理由は
信長をメインに据えたタイムスリップ作品が多く生まれている背景として、まず漫画界における「戦国時代」の人気を挙げる。幕末とならんで、この時代はドラマ性や華のある人物が多数存在する。また身分による壁を超えて自身の実力や意思を武器に活躍する人物もいたという時代背景から、現代を生きる読者に強い共感を呼べると分析。
そんな戦国時代の中でも信長は別格の人気を有し、歴史に詳しくない人でも名前や性格が周知されていることが、数多くの漫画に登場する理由として「大きい」と話す。
信長のほかにタイムスリップ漫画で人気の武将として、豊臣秀吉や徳川家康、伊達政宗などを挙げる。ただ、主要人物として扱われる数では「やはり信長が圧倒的です」。
秀吉や家康といった有名大名と比べても、信長のキャラクター性は物語を創作するうえで活かしやすいのだという。
英雄とも、極悪非道な「第六天魔王」としても描写可能。「気性は荒くとも頭脳は明晰」であり、物語上さまざまな要素と組み合わせやすい。さらに志半ばで死を遂げたことから、その「続き」を描きたくなるのだという。「こんなに物語に向いた人物はおらず、今後も数多くの作品が作られていくでしょう」と語った。