「ヒロシマ」を描けない
文化勲章を受章した日本画家の平山郁夫さん(1930~2009)は、被爆体験を「作品」として表現することがなかなかできなかった。
原爆投下時は15歳。広島の中学3年生だった。原爆が落ちた瞬間を、間近で目撃した。たまたま爆風と熱線の直撃を避けられる場所にいたので、奇跡的に助かったが、おびただしい死者と炎上する広島市を目の当たりにした。「世界のおしまいかなと思った」と、NHKアーカイブス「戦争」で語っている。
画家仲間は、平山さんが被爆者だと知っていた。「原爆を描け」と若いころから盛んに勧められたという。平山さんなら描けるはずの重要なテーマだからだ。しかし、衝撃が大きすぎて、戦後何年たっても描く気になれなかった。