演奏会会場までの水先案内人
公演情報を軸に、飼い犬にまつわるツイートや、地元・神奈川の景観や食事処の投稿をするなど、今でこそ「担当者の人柄が垣間見える、親しみやすいアカウント」だが、運用当初は楽団のイベント情報はじめ、音楽関連の発信のみだった。
転機が訪れたのは、仙台フィルハーモニー管弦楽団(以下、仙台フィル)と、「公演情報を相互にアップするようにし始めた17年頃」。記者が、仙台フィルアカウントの投稿をさかのぼると、16年には「オーケストラを支える裏方」人気投票を実施したり、「中の人が、午後8時をお知らせします」と時報投稿したり、11月29日に「いい肉の日」とつぶやいたりしていた。フランクなツイートの数々から、「これでもいいのか」と、かなフィル担当者は衝撃を受けたそうだ。
ツイッターではままあることだが、宣伝よりも、取り留めもない投稿の方がウケやすい。頻度や内容に気を付けながら、プライベート(個性)を出して、アカウントひいてはオーケストラに興味を持ってもらうきっかけにしたいと考えている。神奈川を訪れた人に「時間があるから、かなフィル聴きに行くか」と思ってもらえるよう、いつかのための種まきをしているのだ。
「バズりたいとも、今すぐ演奏会に来てほしい、とも思っていません。『オーケストラは、聴いたらどんな人でも楽しい』と知ってほしいんです」
オーケストラには、「硬い」「ハードルが高い」イメージがつきまといやすい。担当者に言わせれば、「確かにハードルは高い」。400年以上の歴史をもつ文化だからだ。そこを、またいでくるために手を差し伸べて「楽しいよ」と言ってあげられるのがSNSであり、中の人の役割だと捉えている。未来の観客が「演奏会に行こうと思う」ところから、演奏会を探し、チケットを購入し、会場に行くまでの「道筋を作る手伝いをしている感覚」だ。
取り組みが奏功しているのが、演奏会で実施するアンケート結果から見て取れる。どこでかなフィルを知り、来場したのかを問う項目に「ツイッター」があり、回答割合がじわじわ右肩上がりしているという。
「ベートーヴェンの素晴らしさが何かなんて、わたしもわかりません。演奏を聴きに来てもらって、とにかく『すごい』というのを共有したいんです」