憧れのクエ 三谷勇さんが博学を駆使して授ける釣り人への助言

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養殖も可能に

   三谷さんは北海道大学を出た水産学博士。神奈川県水産試験場(現 水産技術センター)の研究員として資源管理などに携わった後、東京大学海洋研究所の非常勤職員を務めた。つり情報での連載は本作で54回目となる。

   釣り人なら一度はファイトしてみたいクエ。総論から始め、歴史をたどって人間社会との関わりを紐解き、生態についての豆知識を語ったうえで、釣り人へのアドバイスで締める。専門誌のコラムらしい、四方に気配りの利いた読み物だと思う。私のような門外漢にもわかりやすい内容で、うなずきながら拝読した。

   クエは料理屋の鍋を何回か食しただけで、家庭の食卓には縁のない超高級魚、という程度の知識しかなかった。うんちく満載の本作を読んだお陰で、次の機会があればだが偉そうに解説できそうだ。豊かな蓄積を、易しい言葉で表現できる専門家はありがたい。

   クエを狙うには磯釣りか船釣り。水深50メートルくらいの岩礁を好むため、岸からだと足場の悪い沖磯に渡る必要がある。初心者には船釣りがお勧めという。

   成長スピードが遅く、60~70センチの良型になるまでに5~10年かかる。生存競争を勝ち抜いた個体はおのずと長命になり、1メートルを超えて成長を続けるらしい。効率を重視する養殖には適さないというのが定説だったが、「近大マグロ」で知られる近畿大学水産研究所が近縁種との交雑で品種改良し、今では養殖できる高級魚となった。

   逆に言えば、ウナギ同様、天然モノの希少価値は高まるばかりだろう。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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