つり情報(8月1日号)の「さかな研究 よもやま話」で、漁業コンサルタントの三谷勇さんが、釣り人と食通を魅了してやまない大物 クエについて書いている。
「ハタ類は沿岸の海藻類の多い岩礁帯やサンゴ礁に棲み、色あでやかな斑紋を付けています」...魚類図鑑を思わせる冒頭だ。斑紋はハタ科を見分ける特徴だが、成長するとまだら模様が薄れたり消えたりする種類もあると、細部にこだわる。
「ハタ類の中の大型魚として釣り人の憧れといえばクエでしょう。大きいものは体重40キロを超えます。かつては体長2メートル、体重100キロを超える個体も珍しくないとされ、八丈島では体重170キロ、徳之島では体重1トンもの...」
話がどこまで大きくなるのだろうと読み進む。「しかし近年、ここまで巨大化するのはマハタの老成魚とされ...」と抑えも忘れていない。
こうした総論に続き、クエをめぐる社会史が万葉時代に遡って綴られる。平城京の邸宅跡から出土した木簡に、サメやクエの切り身を干したものを貢納したとある。平安時代には現物納租税として、紀伊や阿波から久恵(クエ)が納められ、宮中料理に使われたそうだ。江戸期には〈身はもろく白い。京の都では賞味しない〉と不確かな記述が残る。
獰猛な一面も
三谷さんの体験や専門知識が光るのは、クエの生態や習性に関する記述だ。
「クエの産卵は夏ですが、生態や生活史はいまだ明らかにされていません...クエの成魚は海底の岩陰や洞穴などに居を構え、一定の縄張りをもって生活します。縄張り内には1尾の成魚のみで、中型のクエが続けて釣れたらかなりラッキーといえるでしょう」
近縁種キジハタの飼育観察によると、産卵時はオスがゆっくりとメスに近づき、エラ蓋あたりを密着させて2~3回水平に円を描くように泳いだ後、2尾の頭が海面に出るほど飛び上がって放卵・放精をするという。
水族館のクエは、口内をホンソメワケベラに掃除してもらう姿で知られる。ほんわかした光景だが、油断はできない。クエの大水槽に30センチ級のタイやハマチを同居させたところ、翌日には腹を膨らませたクエだけになっていた...なんてこともある。
「普段はおとなしいクエもお腹が空くと見境いがつかなくなり、鋭い歯で目の前にある人の手や長靴などに噛みつく獰猛な一面もあります」
クエはエサを獲るとすぐ反転して隠れ家に戻るが、ひとたび獲り損ねたエサには、どんなに空腹でも二度と食いつかないといわれる。
「釣りにおいても完全にエサを飲ませることが肝要で、ハリ掛かりした後は穴に逃げ込まれないよう踏ん張ることが大切と分かる観察記録でしょう」