【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年
今シーズン開幕前に、「彼」が日本代表に選出されると予想していた識者は皆無だろう。
東アジア4か国による「E-1選手権」には、欧州組は招集されていない。Jリーグを舞台にする選手にとって、大きなチャンスではある。だが、「ラージグループ」を重要視する森保一監督が、近年の日本代表活動に縁の遠い選手を選ぶとは思えなかった。
海外で結果残せず
彼は、将来を嘱望されていただけに、その反動も大きかった。同じ時期に、Jリーグを経由せずに海外に渡った選手たちが、結果を残せなかったことも、落胆に拍車をかけた。
リスペクトを欠けた表現だが、彼の日本代表入りを渇望しなくなり、「過去の選手」ととらえてしまっていた。
かつて中田英寿氏は「Jリーグで経験を積んで、日本代表として世界を経験して、欧州に移籍していく」モデルケースをつくった。私が以前インタビューした前園真聖氏は、こう話した。
「ヒデ(中田氏)が前例を塗り替えたように、成功して『前例』が変わる。十代で欧州三大リーグでも普通にプレー出来る」(2019年10月15日付J-CASTトレンド記事よりhttps://www.j-cast.com/trend/2019/10/15369765.html?p=3)
だが彼は、前例を変えられなかった。
技術もドラマ性もある選手
悪く言えば「出戻り」。だが、私はそうは思わない。
「彼」。宮市亮が、E-1選手権で活躍することには二つの意味がある。
一つは、新たなモデルケースをつくり出す可能性。十代で欧州3大リーグにチャレンジしたがレギュラーをつかめず、28歳で日本に戻る。そこから活躍し、10年ぶりに日本代表に復帰――。宮市自身、「今もけがで苦しむ選手は多い。諦めない気持ちを持っていれば何か変わる、人生の中で変わる転機は出てくる。そうした姿も一つ見せたい」(『スポーツ報知』より)と意義を語っている。
そしてもう一つ、純粋に森保ジャパンに新たなオプションが生まれる点だ。
FIFAワールドカップ2022カタール大会(カタールW杯)に臨む森保ジャパンのディフェンス、ミッドフィルダーはほぼリストが固まっている。一方で、「ポスト大迫勇也」が見つかっていないセンターフォワードはもちろん、アタッカーのポジションには滑り込める可能性がある。
宮市は武器であるスピードだけでなく、クロスの精度もかなり高い。左右どちらとも縦への突破や、カットインからのシュートやクロスなどパターンがあり、委任戦術をとる森保ジャパンでも色を出しやすいはず。
欧州組不在もあり、E-1選手権に対する大手メディアや日本人の関心は高いとは言いがたい。しかし、森保ジャパンの選手たちは本気だ。優勝すれば、カタールW杯のメンバーリストに入る可能性があることは、史実が物語っている。優勝した2013年大会では、初招集ながらも得点王になった柿谷曜一朗と、同じく初招集で大会MVPの山口蛍が、FIFAワールドカップ2014ブラジル大会のメンバーに名を連ねた。逆に言えば優勝が最低ノルマで、加えて圧倒的な個のパフォーマンスを魅せて初めて、メンバー争いに食い込むことが出来る。そんな中でも期待値の高い選手の一人が、宮市なのだ。
「回り道のない人生なんて、あらすじで読む小説のようなものだ」とは中谷彰宏氏の言葉だが、大手メディアや日本人が好むドラマ性もある宮市に、注目したい。(選手敬称略)
石井紘人 @ targma_fbrj