豆スープが接点に
飾らない文章が魅力の壇蜜エッセイ。今回もすっと読めた。
彼女が触れた「有名ホラー映画」とは、もちろん1973年の米国作品「エクソシスト」である。リンダ・ブレア演じる少女リーガンに悪魔が取り憑く話。緑の液体を神父に吐きかけるグロテスクなシーンの撮影には、「小道具」としてエンドウ豆のポタージュが使われたとされる。そんなエピソードも筆者自作のイラストで添えられている。
恐怖映画の中の緑色に、わずかながら救われる...地獄で仏か。コンクリートジャングルの公園や遊歩道にも、同様の効果や役割がある。緑豊かな三多摩地区で生まれた女性の「緑ロス」で始まる本作は、あの手この手でこの色の効用を説明していく。
緑が嫌い、グリーンが苦手という人はそういない。植物の色である。万人に好まれるのは、同じ生物としての親近感ゆえだろうか。都市の緑には、日陰をつくってヒートアイランド現象を和らげる仕事が期待されているし、何より見た目が人を癒やす。
いちおう食にまつわる連載なので、そこからどう展開するのかと思いきや、筆者はホラー映画を持ってきた。「撮影に使われた豆スープ」という一点で辛うじて「食」とつながる仕掛けだ。それもやや強引に「いま吐き出されるべき色」として。
本作で349回を数える人気連載だけに、編集者が筆者に与えた「自由度」は相当に大きいと見た。壇蜜さんもそれを楽しんでいる風なのがいい。
冨永 格