筑波大学の近くには、お金に困った学生へ向けて無料で食事を提供する店がある。「海鮮居酒屋 豊しん」(茨城県つくば市)だ。
新型コロナウイルス禍の影響で困窮した学生を対象に、2021年1月に無料「まかない」の提供を開始。当初は数日間限定のサービスとしてスタートしたが、1年以上が経った22年6月22日現在も提供は続いている。
取引先と学生の両方を支援
「バイトの減少、仕送りの減少などで食事が困難な学生さんは13:00~13:30の間に学生証を持ってカウンターで、こっそりと『まかないくれ』と言っていただければ無料で食事を提供いたします」
「満福は幸福のはじまりだー」
「豊しん」店内には、こんな貼り紙がある。
店舗ツイッターでは6月21日、近隣大学の新入生に向け、改めて無料の「まかない」サービスについて告知した。現状は、無期限で提供する方針だとし、「困った時にはご利用ください」と呼びかけた。
「豊しん」店主の豊嶋さんに取材した。もともとは、取引先の仲卸業者を支援する意図があった。当時、コロナ禍に伴う飲食店の時短営業や休業により、市場内で魚介類などを扱っている業者が売り上げ不振に陥った。豊嶋さんとしても仕入れ先が廃業すれば痛手だ。少しでも助けになればと、食材の「爆買い」を開始した。
大量に仕入れた食材は、余ることがある。ただ廃棄するのは惜しい。そこで、食事に困っている学生に無料で消費してもらおうと考えた。「魚なんか生ものですから。大事に取っておいてもしょうがない」。
必ず付いてくるおかず
現在でも、コロナ禍の影響で困窮する人は一定数いると考えられる。フードロス削減もかねて、豊嶋さんはこの支援策を長期的に実施しているのだと話す。最終的には「困ったときにはあそこに行けばご飯が食べられるな」と思われる店になれば、無銭飲食など犯罪に走る人も減らせるのではないか――こんな思いもある。
これまで利用してきた学生は「100人以上」。栄養バランスを考慮しつつも、「まかない」の内容は日によってまちまちだ。刺身、あるいは焼き魚とご飯というパターンのほか、カレーや肉を提供することもある。
ただ、毎回必ず提供しているおかずがある。「みそ汁」だ。
「やっぱり、温かいものを食べるとほっこりするじゃないですか」(豊嶋さん)