記憶の回路
間もなく500回を数える長期連載、必ずしも毎回エロエロというわけではない。駅前で出会ったモンチッチ像から新人ホステスを追想する本作も、下ネタは出ずじまいだ。
30代のみうらさんは漫画やイラストのほか音楽も手がけ、テレビにも出始めていたが、まだ知る人ぞ知る的な存在だったと思われる。少なくとも、モンチッチのほうがはるかに知られていたはずだ。
セキグチは1918年の創業、大正期にセルロイド人形から始めた100年企業だ。戦後はソフトビニール人形やぬいぐるみを手がけ、モンチッチで飛躍した。新小岩駅前の銅像は今年1月(発売48周年)に設置され、製作費は同社の関口晃市会長が寄付したという。
みうらさんが新小岩駅に降り立った経緯は定かでないが、モンチッチといえば「あの新人ホステス」という記憶の回路があったのだろう。
当時を思い出した筆者は、彼女が上京して真っ先に向かったと話したセキグチ・ドールハウスの所在地に向かう。施設はすでに閉じられ、跡地は2016年から区立の「モンチッチ公園」になっていた。みうらさんはしばしたたずみ、エッセイをこう締めくくる。
「顔ももう覚えてないけど、彼女がひょっとして訪ねて来る気がして」
随分きれいな終わり方である...どこがエロエロやねん。
冨永 格