追憶のモンチッチ みうらじゅんさんが銅像からたどる30年前のひと

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記憶の回路

   間もなく500回を数える長期連載、必ずしも毎回エロエロというわけではない。駅前で出会ったモンチッチ像から新人ホステスを追想する本作も、下ネタは出ずじまいだ。

   30代のみうらさんは漫画やイラストのほか音楽も手がけ、テレビにも出始めていたが、まだ知る人ぞ知る的な存在だったと思われる。少なくとも、モンチッチのほうがはるかに知られていたはずだ。

   セキグチは1918年の創業、大正期にセルロイド人形から始めた100年企業だ。戦後はソフトビニール人形やぬいぐるみを手がけ、モンチッチで飛躍した。新小岩駅前の銅像は今年1月(発売48周年)に設置され、製作費は同社の関口晃市会長が寄付したという。

   みうらさんが新小岩駅に降り立った経緯は定かでないが、モンチッチといえば「あの新人ホステス」という記憶の回路があったのだろう。

   当時を思い出した筆者は、彼女が上京して真っ先に向かったと話したセキグチ・ドールハウスの所在地に向かう。施設はすでに閉じられ、跡地は2016年から区立の「モンチッチ公園」になっていた。みうらさんはしばしたたずみ、エッセイをこう締めくくる。

「顔ももう覚えてないけど、彼女がひょっとして訪ねて来る気がして」

   随分きれいな終わり方である...どこがエロエロやねん。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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