アスリートは現役引退後の生活が不安だ。解説者や監督、コーチになれる人は一握り。そんな中で、陸上競技の元五輪選手が、会社を立ち上げたり、ビジネスを始めたりする例が目立っている。新しい動きとして注目されている。
「アスリート支援×地元支援」
東京五輪のマラソンで6位に入賞し、いったん現役を引退した大迫傑さんは、五輪直後の2021年9月27日、新たに「株式会社I(アイ)」を設立した。
日本テレビによると、大学生を対象とした育成プログラムや、知見を子供たちに伝える「育成事業」のほか、「アスリートマネジメント事業」、ランニング文化の醸成を通して、地域活性化のコンサルティングやアドバイスをする「地域活性化事業」などを行う会社だ。
「月刊陸上競技」によると、同年11月には、「アスリート支援×地元支援」の第1弾として、東京五輪マラソン代表の服部勇馬さん(トヨタ自動車)、18年日本選手権5000メートル(m)優勝の弾馬さん(トーエネック)兄弟による、新潟県十日町市での活動をサポートすることを発表した。
服部兄弟は十日町市出身。市内の小中学校で、ランニングクリニックを開催するなど、地元への貢献にも取り組んでいる。
十日町市はコシヒカリの産地で、両選手の実家も米作り農家。「株式会社I(アイ)」は、その米の販売促進にも取り組む。
さらに今年2月には、スポーツを軸とした地域社会の発展と人生育成の進行に寄与することを目的とした包括連携協定を、一般社団法人十勝うらほろ樂舎(北海道・浦幌町)と結んでいる。
大迫さんは今年に入って現役生活にも復帰、経営者と兼務の日々のようだ。
ゴールドウインの社外取締役
大企業の経営に関与する元五輪選手もいる。WWDJAPAN.comによると、ゴールドウインは22年4月27日、社外取締役に元陸上選手の為末大氏が就く人事を発表した。
6月23日の株主総会、取締役会を経て就任する。アスリートとしての経験だけでなく、社会課題を解決するための活動にも積極的な為末氏の知見を経営に生かす、という。
為末氏は1978年、広島県生まれ。400mハードルでシドニー、アテネ、北京のオリンピックに出場し、世界選手権では2001年のエドモントン大会、05年のヘルシンキ大会の400mハードルで銅メダルを獲得した。12年に現役引退後は自身で会社経営もしている。
著書も多い。陸上競技関係のみならず、『負けを生かす技術』(朝日新聞出版)、『諦める力 〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉』(プレジデント社)、『生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば』(日本図書センター)など人生論関係も目立つ。スポーツだけでなくビジネス、社会貢献など多彩な活躍を続けている。
「こだわりの逸品」
17年の世界陸上400メートルリレーで銅メダルを獲得し、リオ五輪200メートルにも出場した藤光謙司さんは、現在、ECサイト「ニューネックス」の代表取締役。同社は今夏、アスリートが認定した商品を集めたECプラットフォーム「KIWAMI(極)world」をオープンさせる。
同社が展開する「世界トップアスリート認定」の商品のみを掲載し、「こだわりの逸品を提供する事業者」と「良い商品を探したい/買いたい消費者」を繋ぐ、という。
「こだわりの逸品」の一例として、以下のような商品が挙げられている。
・世界最高水準の安全テストをクリアした、オーガニックコットン100%の今治タオル
・厳選された植物由来原材料/無添加で作られた、世界初の完全栄養食
・特許技術の栽培方法で育てた原料から生まれた、唯一無二の無添加せっけん
認定商品はすでに200品目を突破したという。
引退後は「会社経営」を希望
プロの選手でも引退後は将来に不安を持っている。日本野球機構(NPB)は5月27日、若手選手を対象とした「セカンドキャリアに関するアンケート」の結果を発表した。
サンケイスポーツによると、対象となった選手は昨秋に開催された「みやざきフェニックス・リーグ」に参加していた12球団の選手213人。そのうち90%近い186人(平均年齢22.7歳、平均年俸625万円)が回答した。
引退後の進路について「不安がある」は123人(66.1%)、「不安はない」が21人(11.3%)、「どちらともいえない」が42人(22.6%)だった。
「不安がある」の要素として最も多かったのが「進路」で「収入面」「やりがいの喪失」と続いた。また引退後のやりたい仕事として最多は「会社経営者」だった。ここでも、「経営者」に人気が集まっている。