米国で銃に関する事件が相次いでいる。最近、特に目立つ。先週末だけで、全米で少なくとも7件の銃撃事件が起き、11人が死亡、54人がけがをしたという。過去には日本人が射殺された事件も発生した。遺族らが今も銃規制を訴える活動を続けている。
スーパーで、小学校で
2022年5月14日には、ニューヨーク州のスーパーマーケットで乱射事件が起きて、10人が亡くなった。被害者はアフリカ系米国人だった。テキサス州の小学校では24日、銃撃事件で児童19人と教員2人の計21人が殺された。
一連の事件を受けて民主党のバイデン大統領は「我々はあとどれだけの殺りくを許容するのか」と語り、厳格な銃規制法案の制定を訴えた。
一方、共和党のトランプ前大統領は5月27日、全米ライフル協会(NRA)の会合で演説。朝日新聞によると、「左派が推し進める銃規制は、この悲劇を止める効果が全くない」と述べ、むしろ訓練を受けた教員が教室で銃を携行できるようにすべきだとした。
米国では銃をめぐる事件が絶えない。東洋経済オンラインによると、昨年は61件の乱射事件が発生し、103人が犠牲になっているという。
AFS留学生も殺された
米国では日本人が犠牲になった事件も複数起きている。
1992年には、交換留学制度 (AFS)でルイジアナ州の高校に通っていた服部剛丈さん(当時16歳)が訪問先の家を間違え、家主に射殺された。
服部さんの両親や支援者は93年にはYOSHI基金を設立。「銃が生活の中にない日本を体験してほしい」と、米国から日本への年間留学生制度(YOSHI基金奨学生)をスタートさせ、毎年1~2人を招いている。米国内の銃規制団体に援助もしてきた。
2007年からは、服部剛丈さんの母校、愛知県の旭丘高校で「安全で平和な社会をつくるには」をテーマに毎年討論会が開かれている。中日新聞によると、21年12月にも銃規制を考える集会「旭丘YOSHIの会」が開かれ、同校の生徒や服部さんの父政一さんら30人が参加した。中国やタイなどアジアから同県内の高校などに留学している人も出席、各国の銃規制や所持の方法、銃に関する事件を報告し、「事件を繰り返してはいけない」と訴えたという。
米国では1994年にも、日本からの留学生2人が射殺される事件が起きている。
武器保有は人民の権利
米国では、武器の保持は国民の権利として認められている。合衆国憲法修正第二条に、「人民が武器を所有しまた携帯する権利は侵してはならない」と規定されている。成立は1791年。先住民との闘いを経て新大陸を開拓し、米国が独立した直後のことだ。
週刊エコノミストオンラインは21年8月21日、「これだけ銃犯罪が増えてもなおアメリカが『銃禁止』を実現できない理由」という記事を掲載。元東洋英和女学院大教授で『アメリカ保守革命』(中央公論新社)などの著書がある中岡望さんが背景を詳しく解説している。
それによると、米国で銃の保有や携帯を禁止するには、まず憲法を改正しなければならない。だが憲法修正は容易なことでは実現しない。憲法修正の発議は議会の両院で3分の2の賛成を得て行われ、50州の3分の2が批准する必要がある。その壁は、あまりにも厚い。
したがって、もっぱら「規制強化」が議論されている。
米国では民主党が規制強化に積極的で、共和党は反対だとされている。共和党は有力なロビイスト団体であるNRAと関係が深い。
民主党のバイデン大統領は、銃購入時の身元確認要件の拡大、最低購入年齢の引き上げなどを含むより厳格な銃規制法の制定などを訴えている。しかし、CNNによると、上院では与野党の議席数が拮抗(きっこう)しており、こうした項目が承認される可能性は現時点では低いという。