本当は「もう働く必要ない」のに
このように、冨樫作品は多くの人にとって「代替のきかない稀有な存在」となっているようだ。
兎来さんは、「挙げればキリがない」と前置きしつつ、冨樫さんの長所を「卓抜したネーム力・画面構成、テンポの良さ、セリフのセンス、美麗な絵やその見せ方の巧さ」と説明する。さらに、現在執筆中の「HUNTER×HUNTER」王位継承戦編にしても、
「100名以上のキャラクターが、個別の動機を抱えながら同時多発的に複雑に絡まり合って、重厚なドラマを生み出すという離れ業」
をやってのけており、年間に数千作を読んでいる兎来さんをして「こんな大変な作劇を行っている作品は、あらゆるジャンルを見渡してもほぼない」と言わしめる。
冨樫さん本人のマンガ家としての実績や実力、作品の面白さが、ツイッターアカウント開設に端を発する一連の出来事を、多くの人に「好ましい」と感じさせている図式が見えた。
なお兎来さんによると、公式に数字は出されていないそうだが、「単行本の印税だけで約60億円の収入」があり、そこに原稿料・アニメや映画、舞台、ゲームなどの版権利用料・関連グッズの売上などの権利収入を加えると、「少なく見積もっても、合計100億円以上の生涯収入がある」。言うなれば冨樫さんは、
「人生を7回以上遊んで暮らすのに十分な収入を得ており、もう働く必要もないにも関わらず、続きを待つ読者のために身を粉にして執筆している」
状況だそうだ。「HUNTER×HUNTER」作中に登場する「ハンターのライセンス」を売却すると、「人生7回以上遊んで暮らせる」設定を踏まえての表現だが、「実際には7回どころか、数十回は遊んで暮らせるものと思われる」と兎来さん。
さらに、冨樫さんの元アシスタントによる著書「先生白書」での記述や、創刊50周年記念「週刊少年ジャンプ展」の際に冨樫さんのコメントで明かされた、「週7で毎日20時間働いても税金で70%持っていかれるので、実質14時間はタダ働き」という、過酷な労働環境を慮る人が増えてきたのでは、ともみている。
(2022年6月5日18時15分追記)兎来栄寿様より、確認不足による誤りがあると申し出を受けたため、一部内容を修正しました。