ウクライナに軍事侵攻したロシアに対し、西側諸国は結束して経済制裁を続けている。しかし、ロシアは抜け道を探し、制裁から逃れようとしている。マネーも、オイルも、穀物も「ロンダリング」されているという。日本にも影響が出ている。
「NYの新しい王」
「ロンダリング」とは、もともとは洗濯のこと。洗い流してきれいにする、というのが原意だ。そこから、不正な行為で得たものを、不正ではないかのように装う場合に使われるようになった。有名なのが「マネーロンダリング」(資金洗浄)。不正な取引で得た金を、銀行口座を転々とさせるなどして、合法的な資金であるかのように取り繕う。
ニューズウィークは4月20日、「NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった」「オリガルヒたちのマネーロンダリングに米司法当局の手が迫る」という記事を公開している。
オリガルヒとはソ連崩壊後、国有資産の民営化を通じて巨万の富を築き上げた新興財閥の大金持ちのこと。彼らが近年、NYの高級マンションを買いあさり、「NYの新しい王」になっているというのだ。豪華ヨットや自家用機、高級車など多数の資産も有しているそうだ。
今回の制裁発動で、米国のバイデン大統領は彼らにも「制裁」を加えると宣言。米司法省は、バイデン政権が制裁リストに載せたロシア人の資産を「あらゆる手段を用いて差し押さえる」ための新組織創設を明らかにしている。
第三国を経由して市場に
「ロンダリング」は石油にも及んでいる。日本政府はすでに欧米の先進国と協調してロシア産石油を原則禁輸とする方針を明らかにした。
5月12日のテレ東BIZによると、日本の原油輸入量のうちロシア産は3.6%を占め、国別では第5位。ロシアの原油生産拠点の一つとなっている「サハリン1」には、日本の大手商社も参画している。
ロシア産原油を禁輸にした場合、日本の権益を失うだけでなく、代替調達先の確保が必要だ。同じように「脱ロシア」を宣言している各国と奪い合いになる。
萩生田経産相は10日の会見で、「ロシア産の原油禁輸というが、オイルロンダリングされたときに、第三国を経由して市場に出てきたものが、ロシアのものかどうか判断するのはものすごく難しい。ロシアに対して大きなプラスになって、何のための制裁だったのかとなってはならない」と、日本が置かれている微妙な立場を語った。
テレ東BIZによると、「オイルロンダリング」とは、日本企業がサハリンから撤退して、権益が第三国の企業に移った場合、そこから原油を買えば、結局はロシア産原油を輸入していることになり、制裁の意味がなくなることを指す。
ウクライナから穀物を強奪
穀物についても、ロンダリングが取りざたされている。CNNは13日、「地中海の港、ロシア商船の入港拒否 ウクライナから盗んだ穀物積載か」というニュースを報じた。
大量の小麦を積んだロシアの商船が、行先の地中海沿岸国の港で入港を拒まれ、シリア北西部のラタキア港に停泊しているという。
ウクライナは世界有数の小麦など穀物類の産地。ロシア軍はウクライナの穀倉地帯で収穫された穀物を強奪、トラックで支配下にあるクリミア半島に運んで、そこからシリア経由で各国に輸出を図っているのだという。
ウクライナ政府の当局者は、3月以降、すでに約40万トンの穀物が、ロシアによって国外に運びだされたと見ている。
シリアはロシアと友好関係にある。そのため、シリアで穀物を別の船に積み替えて、中東やアフリカなどに輸出する手口も使われているという。いわば「穀物ロンダリング」「産地偽装」だ。 今回は、ウクライナ政府がエジプトやヨルダンに、穀物は盗まれたものだとの連絡したため、積み荷はシリアで立ち往生しているという。