自虐ネタの鉄則
エッセイでもトークでも、いわゆる「自虐ネタ」で笑いを取るには鉄則が二つある。まずは自分を徹底的に突き放していること。ことさら貶める必要はないが、突き放し方に未練があると、つまり少しでも格好をつけると読者や聴衆は白けてしまう。
もうひとつ、筆者や話者にそれなりの地位や素養が備わり、そのエピソード以外では概ねマトモな人だと広く了解されていることである。ふだんは「ちゃんとした人」だからドジ話が面白い。日頃との落差ゆえに、遠慮なく笑えるわけだ。
阿川さんは書いても話してもそのへんの呼吸が絶妙で、安心して楽しめる。しかもご自身の体験や、見聞きした逸話が豊富である。
誰にも、外国語にまつわる失敗談や苦労話はある。それを記憶に忠実に、かつ面白く整理して読ませるには才能が要る。本作では記憶に新しい冬季五輪を枕に、たくさんの勘違いがイモヅル式に紹介されていく。ホイットニー・ヒューストン、ウッディーズ、絵本の読み聞かせとつなぎ、ベーブ・ルースを最近まで「べー・ブルース」だと思い込んでいた話まで、サービス精神旺盛な阿川ワールドである。
これは編集者の発案かもしれないが、夏樹静子(1938-2016)の代表作(1982年刊)になぞらえた「Wの悲劇」というタイトルにも感心した。
冨永 格