母娘の服選び 霜鳥まき子さんが仕事で遭遇した複雑な人間模様

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服で可視化する

   まずはパーソナルスタイリストという仕事だが、個人の着こなしについて助言するサービス業、といったところか。2月の連載初回にある著者自身の言葉を借りれば〈個々の生き方や嗜好、ものの見方、考え方のスタイルを洋服で構築・可視化する仕事〉となる。

   おしゃれに関するカウンセリングのほか、服買いや美容院への同行、自宅のクローゼット点検、メイクレッスンまで手がけるそうだ。

   霜鳥さんは、日本航空の国際線CAからスタイリストとして独立、これまで15年、10歳から88歳まで2万人以上の相談に乗ってきたという。雑誌での連載は初めてだ。

   さて母娘の服選び。私には遠い世界だが、書かれている事例が「ありそう」なことは理解できる。母から娘への「呪い」の言葉。娘を思うゆえに傍から見れば頑迷を貫いてしまう母。母親への反発を服の色でしか表現できない娘。いずれも辛いものがある。

   霜鳥さんと接点を持つような家庭は、経済的に余裕のある部類であろう。幸せそうな母娘の間にも、他人がうかがい知れない緊張や葛藤がある。そこに割って入り、より良い道に導く仕事は精神科医や心理カウンセラーにも通じている。服飾の世界、なかなか奥深い。

   最後に自分と娘の関係に触れるのもフェアで結構。「ところで先生、あなたはどうなんだ」という読者の問いに先回りし、悩める親たちを見事に安心させてくれる。専門家にも、絶対的な正解があるわけじゃないんだと。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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