300万人の署名
同書の著者、大内裕和・中京大学教授によると、1969年の国立大初年度納付金は1万6000円(うち授業料は年間1万2000円)。それが2016年は81万円強(うち授業料は53万円強)。物価は3倍強だから、大学教育にかかるコストは跳ね上がっている。
1969年当時の育英会奨学金には「一般貸与」のほかに、「特別貸与」制度があった。毎月8000円貸与されるが、返済義務は3000円のみ。5000円分は実質給付だった。
「特別貸与」の奨学金は、「特に成績が優秀で,経済的な理由により就学困難な学生」が対象とうたわれていた。しかし、文科省の1969年のデータによると、貸与者は「一般」と「特別」がほぼ同数。かなり幅広く支給されていた。この「特別貸与」は1984年の制度改正まで続いていた。
ところが、同書刊行時の日本学生支援機構(日本育英会の後身)の奨学金は、すべて貸与型。2012年には大学生の52.5%が奨学金を利用していた。20年前は21.2%だったから急増し、大半が利子付き。月12万円まで借りられることもあり、卒業時に借金が数百万円という例は珍しくないと同書は指摘していた。
大内さんは13年には全国組織「奨学金問題対策全国会議」を共同代表として設立。活動がマスコミにも注目されるようになり、14年には延滞金の利率が年10%から5%に軽減されるなどの成果があった。給付型奨学金の導入を求める全国署名は、16年3月には300万を突破した。こうした声などに押され、政府は同年12月、18年度から住民税非課税の1学年2万人を対象に給付型奨学金の導入を決めたという。