政府の小麦引き渡し価格の値上げを受けて、製粉会社が2022年6月末から、業務用小麦粉の値上げをすることが次々と発表されている。
今回の値上げでは、まだウクライナ情勢は部分的にしか反映されていない。異常な円安も加わって、小麦価格がさらに高騰するのは次の改定期を踏まえた今年の年末になりそうだ。
過去2番目の高率アップ
小麦は9割が輸入されている。食料原料の安定供給の必要から、政府が全量を買い上げ、製粉会社に売り渡す仕組みだ。売り渡し価格は年2回、4月期と10月期に改訂される。
2022年4月期の売り渡し価格について政府は3月9日に、17.3%の値上げを発表した。過去半年(21年9月2週~22年3月1週)の平均輸入価格をもとにしている。過去20年間で2番目に大きい率になっている。
1週間ほど前から続いている製粉会社による値上げ発表は、この政府価格の値上げを反映したもの。日清製粉など大手メーカーは6月20ごろから順次値上げする。これを受けて、うどんやパンなど小麦を原材料とした身近な食品が値上げになる見通しだ。
政府価格の改定と、製粉会社の値上げは、常に2か月以上のタイムラグがある。これは、小麦が基幹食料となっており、「2.3か月分」の備蓄が要請されているためだという。
最高値に迫る
日清製粉のウェブサイトによると、政府の小麦の売り渡し価格は、小麦の国際価格、海上輸送運賃、為替の三要素で決まる。
今回の国際価格の値上がりは、昨年夏の高温・乾燥による米国、カナダ産小麦の不作の影響が大きい。日本は米国、カナダ、豪州の3国から全量を輸入している。不作によって、日本が求める高品質小麦の調達価格が一段と上昇した。さらに、ウクライナ情勢などを受けた供給懸念も加わった。1ブッシェル(約27キロ)当たりの平均価格は6.8ドルから7.7ドルになっていた。
輸送運賃は、平均すると横ばいだったが、為替は円安傾向で推移。21年10月期算定期間の平均111円から、22年4月期算定期間は平均115円になっていた。
これらの要素を勘案し、4月期は1トン当たり7万2530円、17.3%というアップ率がはじき出された。これまでの最高値だった、08年10月期の7万6030円に迫る高水準となっている。
消費者の購買力を圧迫
しかし、本当に怖いのは今年の10月期の改定額だ。ウクライナやロシアは主要な小麦の輸出国。日本は両国から輸入していないが、ウクライナでの戦争は国際価格を高騰させ、このところ4月期の算定価格よりも3~4割高い。加えて円安がある。こちらは125円にもなっている。海上輸送費も、原油の高騰など不安定要素が大きい。これらを総合すると、10月期は、4月期より大幅に値上がりする可能性がある。
東京新聞は3日、小麦価格について、第一生命経済研究所の永浜利広・首席エコノミストに聞いている。
同氏は、ウクライナ情勢の影響が出るのはこれから、と指摘。「ロシアとウクライナの2カ国で世界の小麦輸出の4分の1以上を占めるため、供給が滞れば、今年10月の改定ではさらに4割程度も上昇すると見込まれます」「小麦の売り渡し価格が過去最高となった07年~08年には、2人以上の勤労者世帯の平均で年間1.9万円も食料費支出が増えました。今回はその時以上に影響が大きく、長引きそうです」と解説している。
同じく第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストのレポートによると、10月期の売り渡し価格は、「直近ボトムの2019年度後半対比2.3倍程度」にもなりうるとのことだ。消費者が、米を中心とした和食にシフトし、米や米商品に対する関心は高まる可能性があるという。