笑う二刀流 今村翔吾さんは、楽しみながら小説を超えていく姿に感服

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道なき道を...

   今村さんはこの1月に『塞王の楯』で直木賞を射止めた作家である。野球が好きで、座右の銘は〈道なき道を行く〉だというから、大谷に対する熱い思いがありそうだ。直木賞の元締め、文藝春秋のスポーツ誌が大谷原稿を依頼するのは自然な流れといえる。

   フィクションを超える現実...小説家としてこれほどの「商売敵」はないが、一野球ファンとしてはさらなる高みを期待してしまう。そんな心情を正直に吐露したメッセージである。編集部の注文に応じつつ、今村さんは「翔」つながりから義経に展開し、時代物を得意とする小説家の素養をさりげなく見せている。

   大谷と義経の人柄の違いに言及し、前者を持ち上げたくだりはやりすぎの印象もあるが、何より彼の笑顔が見たいという点は私も同意。大リーグのライバルや敵地ファンをも魅了する言動は大きな才能であり、明るいことは種目を問わずスポーツビジネスの大前提だ。しかも二刀流の剣士は、笑顔さえ天性のものらしい。

   2022年の開幕戦、大谷は先発投手を務めた後に指名打者に転じ、大リーグの長い歴史にまた「初」を刻んだ。第2戦では今季初安打と初得点を記録、夢の続きが始まった。圧倒的なパフォーマンスを誇るアスリートが、実は性格もいいというカンペキ。前例の地平を離れてどこまで翔んでくれるのか、できれば創作の余地を残さず消してもらいたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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