アルファベットの「Z」が悪者になっている。ウクライナに軍事侵攻したロシアの戦車などに「Z」の文字が大きく書かれているうえ、ロシア国内などで「Z」が、戦争支持のシンボルマークのようになっているからだ。
「Z」という文字は以前から、様々な企業や商品名で使われている。それだけに、戸惑いもあるようだ。
サムスンが削除
アイテム情報誌「GetNavi(ゲットナビ)」のウェブサイトは2022年4月1日、「海外でGalaxy折りたたみスマホから『Z』が消える」というニュースを報じている。韓国サムスンはリトアニア、ラトビア、エストニアの3カ国で、折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold3 5G」「Galaxy Z Flip3 5G」の商品名から「Z」の文字を削除しているという。
これらのバルト三国は旧ソ連に編入されていたこともあり、「反ロシア感情が高い国々として知られています。そのような国民感情に配慮して、サムスンはまずこれらの国々にてブランド名を変更したことが推測されます」と書いている。
韓国紙「朝鮮日報」によると、サムスンはウクライナでも、「Galaxy Z3」を「Galaxy Fold3」へ、「Galaxy Z Flip3」を「Galaxy Flip3」へ、それぞれ変更ずみという。
3月17日のサンスポによると、スイスの保険大手チューリッヒは、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているとの誤解を避けるため、企業ロゴ「Z」の使用を会員制交流サイト(SNS)で取りやめている。
Zは社名のアルファベット表記「ZURICH」の頭文字で、ロゴでは丸く青い背景に白抜きでデザインしている。日本法人によると、風評被害が広がりやすいSNSでの利用を取りやめるようグループ各社に指示があったという。
力強いシンボル
ロシア語のアルファベットには「Z」の文字はない。では、なぜロシアで急に「Z」が広く使われているのか――。
BBC放送によると、ロシア語で使用されるキリル文字では、「Z」は異なる書き方(数字の3のような形)をする。しかし、ロシア人の大半は、欧米のアルファベットが使うラテン文字の「Z」を認識している。
BBCは、「プロパガンダでは、一番シンプルなものが最も早く受け入れられがちだ」「この文字はなかなか威圧的で、きっぱりしている。美的観点からは、非常に強力なシンボルだ」という専門家の見方を紹介している。
ロシア国営放送「チャンネル1」のニュース番組によると、「Z」はロシア軍の装備によくあるマークだという。正教会の親プーチン派ウェブサイト「ツァーグラード」は、このシンプルなマークによって「味方からの誤射を防ぐ」ことができ、「他のものと混同されなくなる」と説明しているという。
「最後の奮闘を期する」
「Z」は世界各国で以前から日常的に使われている略語だ。最近では「Z世代」が有名だ。日本だけでなく「ジェネレーションションZ」として米国などでも定着している。1990年代中盤以降に生まれた世代を指す。1960年代中盤~1980年頃生まれが「X世代」、1980年頃~90年代中盤生まれが「Y世代(ミレニアル世代)」とされ、「Z」はそれに続く世代という意味だ。
このほか「フェアレディZ」などのブランド名、通信添削などで知られる教育産業の「Z会」などのほか、学生運動が盛んだった時期は、白いヘルメットにZを記したセクトが東大や早稲田大で勢力を誇った。「ドラゴンボールZ」などアニメでもおなじみ。「快傑ゾロ」ではZは正義のサインとなっている。
「Z旗」も有名だ。ブリタニカ国際大百科事典によると、船舶旗旒信号でZを表す旗のこと。日露戦争の日本海海戦で,戦闘開始にあたって連合艦隊の旗艦「三笠」に掲げられ、第二次世界大戦でも真珠湾攻撃,マリアナ沖海戦,レイテ湾海戦の際に,Z旗が掲げられた。一般に「最後の奮闘を期する」という場合に「Z旗を掲げる」と表現するようになったという。
「Z世代」に身近な企業では、「Zホールディングス」がある。ヤフーやLINEを傘下にする巨大企業の社名だ。同社は、サンスポの取材に「情勢は注視しているが、現時点で決まっていることはない」と説明している。