第19回本屋大賞が2022年4月6日発表され、逢坂冬馬さん(36)の長編小説『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)に決まった。第二次世界大戦の独ソ戦で、独軍に母親を殺された少女が狙撃兵になる、というストーリーだ。
現在、ウクライナでは真逆の戦いが行われているだけに、逢坂さんは受賞を喜ぶと同時に、複雑な心境をコメントしている。
37万部突破
同書は、なぜソ連だけが第二次世界大戦で多くの女性兵士を前線に動員したのか、ということをテーマにした骨太の作品だ。
物語の主人公は、モスクワ近郊の農村に暮らしていた少女セラフィマ。1941年6月、独ソ戦が始まった。独軍によって、母親や村人たちが惨殺され、復讐のため狙撃兵になることを決意する。似た境遇の女性だけで編成された小隊に入り、過酷な訓練を重ねやがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう・・・。
2021年8月、未発表のミステリーを対象とするアガサ・クリスティー大賞を受賞。同11月17日に単行本として発売されると、1週間で5万部を突破し、あっというまに大手書店の文芸書ベストセラーのトップに躍り出た。これまでに37万部になっているという。
推薦者の一人、浅田次郎さんは、「とうてい新人の手とは思えなかった。まず、文章表現には不利な戦闘シーンの描写がうまい。これは想像力と語彙(い)の豊かさによってもたらされているのだが、だとすると作者は天賦の才を与えられている」と語っている。
「絶望することはやめます」
本書は約80年前、旧ソ連が戦場となった「独ソ戦」をテーマにしている。ソ連の犠牲者は約2700万人。半数近くが戦闘員で、他は非戦闘員。独はソ連以外の戦線も含めた数字で戦闘員が約531万人、民間人が約300万人と言われる。有名なレニングラードの戦いでは、独は兵糧攻め作戦に出る。包囲して物資輸送を阻み、100万人が飢え死にしたと言われる。最終的にソ連が勝利し、西欧での第二次世界大戦終結につながった。
ところが、現在、ロシアがウクライナに侵攻、多数の市民を虐殺していると報じられている。一部の都市はロシア軍に包囲され、兵糧攻めが行われているとも伝えられている。銃を手に戦っているウクライナ市民も多い。
複数のメディアによると、授賞式に登壇した逢坂さんは「このような素晴らしい賞をデビュー作も関わらず授けていただけたことは、感謝の気持ちでいっぱいです」と喜ぶ一方で、「私の心は、ロシアによるウクライナ侵略が始まった2月24日以降、深い絶望の淵にあります」と切り出し、「このナチスによるポーランド侵攻、満州事変に匹敵する、むき出しによる覇権主義による戦争が始まったとき、私はこの無意味な戦争でウクライナの市民、兵士、あるいはロシアの兵士がどれだけの数だけ亡くなっていくのだろうと考え、また私自身が書いた小説に登場する主人公・セラフィマがこの光景をみたならば、どういう風に思うのだろうと考え、悲嘆に暮れました」と話した。
そのうえで、こう続けた。「(セラフィマが)ただひとりか、あるいは傍らにいる人と町に出て、自分が必要とされていると思ったことをするのだと思います。私も絶望することはやめます。戦争に反対し、平和構築のための努力をします。それは小説を書く上でも、それ以外の場面でも、変わりはありません」。
J-CASTトレンドではすでに昨年12月、「『同志少女よ、敵を撃て』が快進撃 発売直後にベストセラートップに」という記事を報じている。