うまく転ぼう 玉置妙憂さんが説く心身鍛錬の術は「風をいなす」

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無敵の肩書

   ちょっとした目撃談から始め、体の鍛え方の話へと展開していく玉置さん。誰もがマラソンランナーになれるわけじゃないし、目指すべきでもないとした上で、これまた守備範囲である心の話に持っていく。さらに専門領域の仏教から「中道」の教えを引いて、結論は「いなすこと、ごまかすこと、手を抜くことの体得こそが身心を鍛える極意である」と。要するに、肩の力を抜いて生きましょうということだ。

   身辺雑記から書き起こし、大きな論に落とし込むのは啓発系文章の常道。エッセイや講話はお手の物の筆者だけに、話題の引き出しも多く、総じて余裕の筆運びである。

   人生の「秋」をエンジョイするハルメクの読者層にとっては、心身の健康をどう保つかが一大関心事だ。「いなす、ごまかす、手を抜く」ことの体得こそ鍛錬...そう言われて目からうろこが落ちた人も多かろう。看護師にして僧侶、つまり体も心も守備範囲。心身のケアについてアドバイスするうえで、強力この上ないキャリアといえる。

   医師で僧侶、という男性を取材したことがある。不便なのは僧衣のまま病院内をウロウロできないことくらいで、臨床現場では無敵の肩書であろう。

   その肩書に、心身の処方箋を易しく発信できる技量が伴う玉置さん。迷える人々にはもちろん、雑誌編集者にとっても貴重なタレント(才能)だと改めて。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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