「謎の歌手」と言われた森田童子さんについて、新しい情報が話題になっている。作家・作詞家のなかにし礼さんの遺作『血の歌』(毎日新聞出版)の中に、森田さんと思われる人物が登場し、生い立ちなどが詳しく記されているからだ。二人はいったいどんな関係だったのか。
ブレイクしても沈黙守る
森田さんは1952年生まれのシンガーソングライター。75年に「さよならぼくのともだち」でデビュー。全国各地の小さなライブハウスやテント公演などで歌い、若い世代を中心に一部で熱狂的な人気を誇った。青春の挫折を色濃く投影した歌詞と、透明感のある歌声が特徴だった。しかし83年、新宿ロフト公演を最後に、時代に背を向けるかのようにひっそりと音楽活動を閉じた。
再びスポットが当たったのは93年、テレビドラマ「高校教師」に作品が使われたのがきっかけだ。再発売されたシングル「ぼくたちの失敗」は100万枚に迫るビッグヒットになり、アルバムも再リリースされるなどブレイクした。しかし、森田さんは沈黙を守り、マスコミの前には現れなかった。そして2018年4月に亡くなっていたことが、日本音楽著作権協会(JASRAC)の会報に「訃報」が掲載されたことで分かった。
なかにし礼さんは1938年、中国黒竜江省(旧満州)牡丹江市生まれ。立教大仏文科在学中からシャンソンの訳詩などを手がけ、その後、作詞家として「天使の誘惑」、「石狩挽歌」、「今日でお別れ」、「北酒場」など多数のヒット曲を生み出した。日本レコード大賞日本作詞大賞など多くの音楽賞を受賞している。作家としても活躍し、2000年には『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞した。ドラマ化された『兄弟』『赤い月』などでも知られる。2020年12月に亡くなった。