まだ手探りの印象
高校時代のデビュー作『インストール』で文藝賞、19歳で『蹴りたい背中』が芥川賞(史上最年少)に選ばれた人気作家。今号では、巻頭に置かれた連載初回とは別に、筆者インタビューを軸に4ページの特集が組まれた。編集部の力の入れようがわかる。
文壇最年少だった綿矢さんも、LEE(集英社)の読者層と重なる38歳になった。結婚して6歳の息子さんがいて、子育てに忙しい。執筆活動は早朝から家族が起きるまでと、子どもを保育園に送り出した午前中が中心だという。
この新連載については「すす~っと読めて、少しミーハーなぐらいの話題がいいかなあと。親しい人と一緒に笑ったり、楽しんでいる感じで書いていきたい」と語っている。
さて、その初回は恋愛小説の虚実についてである。恋愛小説を真に受け、恋に恋した若き日の綿矢さんに、プロの書き手となった20年後の綿矢さんが懺悔するような構成だ。ごめん、ほとんど全部フィクションなの...と。
端正な筆致はファンを喜ばせるだろう。専門領域だけに、何をどう書いても説得力が伴うのだが、まだ手探りの印象だ。小説論的な硬さも残る。せっかくの機会なので、少し崩れた、わきの甘い綿矢さんも読んでみたい。次回を楽しみに待とう。
冨永 格