【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年
サッカー日本代表がオーストラリアに勝利し、FIFAワールドカップカタール2022(カタールW杯)出場を決めた。
だが、これはゴールではなく、道の途中である。カタールW杯で「日本代表歴代最高の成績であるベスト8以上」を目標に、森保一監督はチーム作りをしてきた。
W杯でキーとなる選手は誰か。前回の対談で、日豪戦での三笘薫選手の活躍を「予言」したサッカージャーナリスト・石井紘人氏と、大阪体育大学スーパーバイザー・北村公紀氏が、注目プレーヤーを分析した。
スリーバックでも中盤の底でもこなせるのは
石井:過去、強豪国とアウェイで試合をした日本の試合を見ると、パワープレーで失点することが多い。森保ジャパンは、吉田麻也(サンプドリア)選手に富安建洋(アーセナル)選手と空中戦に強いセンターバックがいますが、相手に押し込まれてクロスを上げられる時には、中盤の底(ボランチ・アンカー)の選手の高さも必要になります。
森保ジャパンで「不動のスタメン」の、競り合いに強い遠藤航(VfBシュトゥットガルト)選手はいますが、ベスト8にたどり着くまで長丁場です。控えの選手が重要になってくる。特に森保ジャパンは、運動量が必要となる戦術を採用しています。
カタールW杯で吉田選手か富安選手が出場停止になっても、板倉滉(シャルケ)選手や谷口彰悟(川崎フロンターレ)選手で補完は出来るでしょう。しかし、そうなると途中交代の選手がいなくなる。東京五輪準決勝のスペイン戦がまさにそうで、残り5分でPK戦という115分で失点してしまいました。
そのような歴史から考えた時に、本大会で必要になるのは、攻撃に関わりながらも、ボックスでの空中戦に対応できる中盤の底が出来る選手。田中駿汰選手はスーパーサブとして必要だと思います。
北村:守備に関しては、3バックなのか、4バックなのか、アンカーを置くのか、ダブルボランチなのか。本大会のコンセプトが決まっていないので、どのような選手がハマるのか、予想しづらい部分があります。そういった意味でも駿汰は、スリーバックでも、中盤の底でも高いクオリティーでプレー出来ますから、チームの緊急事態に即座に対応できるので、私も推せます。
森保ジャパンは、サイドの選手はある程度の役割は明確ですよね。特徴のある選手も多く、激戦のポジションとなっていますが、私は堂安律(PSVアイントホーフェン)選手に期待しています。
石井:今の森保ジャパンにはセットプレーの絶対的なキッカーがいません。それも含めて私も、堂安選手に期待しています。
2人の「大地」に期待
北村:私の最後の1人は、鎌田大地(Eフランクフルト)選手です。東山高校の福重良一監督は、大阪体育大学出身ということもあり、鎌田選手は大体大の練習にも少し参加したことがありました。
鎌田選手は持って生まれたステップの良さがあるんです。いわゆる大足にならずにプレー出来る。踏ん張らない足の使い方を身に着けていて、大けがしづらい。他の選手にないステップなので、一生懸命に走っていないように見えるかもしれませんが、すごく良い動作をしています。
石井:動作という意味で、私の最後の1人は林大地(シント=トロイデンVV)選手です。古橋亨梧(セルティック)選手など結果を出しているFWの選手がいる中で、林選手を推したいのは、大迫勇也(ヴィッセル神戸)選手の代わりとなりうるポストプレイヤーだからです。
北村:(林)大地の細かいステップを使った、タイミングを逃さない先手を打った相手へのコンタクト。そのコンタクトも、例えば身長185~190センチあるセンターバックに対峙する時は、大体大では「背中正対」という言葉を使っているんですけど、相手選手のお腹に半身で垂直に接触させていく。相手の正中線(ヒトや動物の前面または背面の中央を、縦にまっすぐ通る線)を攻めて、たとえば少し沈み込んで、相手の太もも付近に接触点を変えて、相手DFを回転軸の様にして入れ替わる。大学時代にだいぶ教えたので、ポストプレー時に生きていますよね。あれが、相手選手のお腹に背中を平行に接触させると完全な背負った状態になり、ターンできません。
背負ってボールをもらうだけではない。フリーで受けたら前向きに仕掛けて、相手DFがアプローチから接触を試みてきた場合、瞬時にハーフターンして自分の背面で相手と接触し、そこからさらにハーフターンで前を向きシュートやパスができるのも強みです。
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最後に編集部から石井氏に、「カタールW杯に出場しそうな、代表未経験の大穴選手も1人挙げてください」と依頼した。答えは、こうだ。
石井:森保ジャパンは、北村氏が語ったように、サイドアタッカーの人材は豊富。現時点で実績の少ない選手が、新たに割り込むのは現実的に難しい。一方で、ロシアW杯のベルギー戦でも垣間見えたように、空中戦に強い守備の選手はまだまだ必要です。そういった意味で、これからの「伸びしろ」も含め、187センチメートルという身長ながらもスピードのあるセンターバック、チェイス・アンリ(尚志高校)選手に期待したいです。
北村公紀(きたむら・こうき)
1965年北海道生まれ。苫小牧東高校から大阪体育大学に進学し、坂本康博名誉監督に師事。卒業後は外資系製薬会社を経て、1997年に学校法人浪商学園に入職し、以後、大阪体育大学サッカー部の指導にあたる。夏嶋隆先生から、動作、「競り」、スポーツ障害の予防やケアを学び、坂本名誉監督・夏島先生と共に、実践的なプログラム開発や、選手の指導を行っている。現在はスーパーバイザーとして、チーム運営全般のサポート、教え子である松尾元太監督、福島充コーチ、松澤憲伸コーチのサポートと学生への指導を継続している。
また、河﨑護・前星稜高校監督の好意で、全国高校サッカー選手権含め、高校サッカーの指導を経験。その動作解析を駆使した相手エース封じ対策は、記者会見でも話題になった。