北朝鮮が2022年3月24日、またミサイルを発射した。今回は飛行高度がきわめて高く、飛行時間がこれまで以上に長い。角度を変えれば、米国本土にまで届くものだったと見られている。
落下地点は、北海道渡島半島の西方約150キロの日本海。久しぶりに日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことで、一段と緊張感が高まっている。
いい加減にしてほしい
北朝鮮は今年に入って11回ミサイル発射実験をしている。しかし、日本のテリトリーともいえる排他的経済水域(EEZ)に落下するのは、21年9月以来だという。「150キロ」というのは、東京から軽井沢ぐらいの距離だ。
日経新聞によると、排他的経済水域(EEZ)とは、天然資源の調査・開発や漁業活動の管理などの権利を沿岸国に認める水域。「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約に基づき、沿岸から200カイリ(約370キロ)までの範囲をEEZとして設定できる。12カイリ(約22キロ)までは領海と定め、国家の主権が及ぶ。EEZの外側は公海で、原則どの国も自由に海洋調査ができる。
朝日新聞によると、今回の落下地点の周辺は、マグロや高級魚アカムツが釣れる好漁場。漁師だけでなく、釣り人も遊漁船も出かける場所だ。「こんな近くに落下したのかと。ぞっとした」と、遊漁船の船長は話している。
日本海に面した青森県深浦町の風合瀬漁協では当時、所属する漁船1隻が、沖合10キロほどの地点で底引き網漁をしていた。男性職員によると、ラジオで発射のニュースを知った後、漁船に電話をして無事を確認。漁船は16時半ごろに帰港した。職員は同紙の取材に、「直接の被害はないので、物騒だなと思うくらいだが、いつもっと近い所にミサイルが届くかわからない。こちらは気をつけようがないし、いい加減にしてほしい」と話している。
防空識別圏にも侵入か
近隣国との「境界」は、領海や排他的経済水域のほかに、領空や防空識別圏(ADIZ)という空の区切りもある。
北朝鮮のミサイルはすでに16年8月24日、初めて日本の防空識別圏に打ち込まれている。安倍晋三首相は当時、「わが国の安全保障に対する重大な脅威であり、地域の平和と安定を著しく損なう許し難い暴挙だ」と怒った。
朝日新聞によると、防空識別圏(ADIZ)とは、国際法で定められた領空とは別に、各国が防空目的で設定する空域。日本は海岸線から12カイリ(約22キロ)の領空より大きく外側に設け、事前申告がなく領空に接近しそうな不審な航空機は、航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)の対象となる。
航空自衛隊のウェブサイトによると、領空は、ジェット機だと1分半で通過してしまう。領空だけでは国土を守り切れないので、各国はADIZを設定している、と説明している。今回の北朝鮮のミサイルも、地図で見る限り、日本の防空識別圏に侵入しているようだ。
弾道ミサイルには対応していない
排他的経済水域や防空識別圏には、厄介な問題も付随する。
排他的経済水域は、領海よりもかなり広い範囲に及ぶので、どうしても近隣国と重なり合うところができる。例えば日中間。
日経新聞によると、海域は距離的に200カイリの範囲が重なり、EEZの境界線は未画定。日本政府は地理的に同じ距離にある「日中中間線」を引き、少なくとも中間線の日本側の海域を日本のEEZとしている。一方、中国は大陸棚延長の主張によって中間線を越えて沖縄近海までを自国海域だと訴え、尖閣諸島の領有権も主張しているそうだ。
防空識別圏について2017年に、北朝鮮ミサイルの侵入・落下を受けて国会で問題になったことがある。
政府は、「我が国の防空識別圏は、我が国が、我が国周辺を飛行する航空機の識別を容易にし、もって領空侵犯に対する措置を有効に実施するため定めているものであり、御指摘の『弾道ミサイルの落下』への対応を目的とするものではない」と答弁している。