中国東方航空のMU5735便、ボーイング737-800NG型機の墜落事故が世界の航空関係者に衝撃を与えている。高高度を飛行中に突然、何らかのトラブルが発生、ほぼ垂直に地上に墜落したという異例の事故だからだ。原因は調査中だが、同型機は世界で約5000機、日本でも150機近くが運航しているだけに、影響は大きい。
高度9000メートル付近から急降下
報道によると、同機は2022年3月21日、中国雲南省昆明の空港を離陸。広東省広州市に向かう途中、梧州市上空で連絡が途絶えた。その後の調べで、高度9000メートル付近から急降下し、墜落していたことが分かった。現場付近の鉱業会社の監視カメラには、機体がほぼ垂直に落下する様子が映っていた。
一般に、航空機事故は、「クリティカル・イレブンミニッツ」(魔の11分間)と呼ばれる離陸や着陸の時間帯に起きることが多い。高高度を飛行中に何らかのトラブルを起こし、最終的にほぼ「垂直落下」というのは、極めて異例だ。
米ブルームバーグでは、航空安全コンサルタントで元737操縦士のジョン・コックス氏が「奇妙だ。機体はそうなりにくい」とコメントしている。
また、米運輸安全委員会(NTSB)の元調査官で737型機の操縦経験のあるベンジャミン・バーマン氏は、墜落原因について結論を出すのは時期尚早だとしつつ、ある種の誤作動や操縦士のミスのほか、幾つかの原因が重なったケースなど、多くのシナリオが考えられると語っている。
同氏は、他のジェット機と同様に、737-800型機は通常なら急降下しないように設計されており、操縦士の極端な操縦もしくは極めて異例な機能不全でなければ、そうなる可能性は低いとしている。
中国情報を扱うRecord Chinaは、中国の航空専門家の見方を伝えている。航空学会発行の雑誌「航空知識」編集長を務める王亜男(ワン・ヤーナン)氏は、「もしパイロットがまだ機体をコントロールできる状態だったなら、主翼や補助翼、昇降舵を動かしてなんとか滑空体勢をとったり、少なくとも地面に対して機体を斜めにしたりしたはずだ」と現地メディアに語っている。
ロイターによると、事故時の梧州市は一部で雲があったが、視界は良好だった。
過去にはテロ、撃墜などのケースも
航空ファン・飛行機利用者のためのサイト「FlyTeam」によると、同型機は1997年7月31日に初飛行。2021年7月末段階で、4989機が製造され、日本では日本航空が48機、全日空が39機、スカイマークが29機、ソラシドエアが14機、日本トランスオーシャン航空が13機、スプリング・ジャパン(旧春秋航空日本)が6機の計149機が運航している。今や国内線では最もよく見かける航空機となっている。
ロイターによると、中国は約1200機あり、うち中国東方航空89機を保有。同社は2022年3月22日、同型機の運航を停止している。
今回の事故のように、高高度を飛行中の民間航空機が突然墜落するケースはきわめて少ないが、過去には爆弾テロや撃墜、機体の欠陥・修理ミス、パイロットの誤操縦・自殺などの例がある。
なお、同型機の後継に当たるボーイング737MAXは、18年10月にインドネシアで、19年3月にはエチオピアで立て続けに墜落事故を起こし、各国で長く運航停止が続いた。
ロイターによると、中国は同型機を140機購入する計画だったが、いち早く運航を停止。ようやく、近く引き渡しが始まる予定だった。それだけに、今回の事故は、中国での737MAX運航再開を目指すボーイングの努力に水を差し、中国側への引き渡しにも影響する恐れがある、と指摘している。
ボーイングは事故調査に全面協力することを明らかにしている。近く米マイアミで開催する予定だった同社幹部役員の会合を中止し、事故原因の調査と東方航空への支援に集中するという。