【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年
3月24日(2022年)、サッカー日本代表はFIFAワールドカップカタール2022(カタールW杯)出場をかけた大一番、オーストラリア戦を迎える。
日本は引き分けでも、ほぼカタールW杯出場が決まる。一方、オーストラリアは勝利しなければ可能性は限りなくゼロに。それだけを見れば、日本が圧倒的有利に感じるだろう。しかし、オーストラリアのホームに乗り込んだW杯アジア予選で、日本の通算成績は2分け1敗。一度もオーストラリアに勝ったことがない。しかも、試合直前にけがで代表を辞退する選手が続出した。
「日豪決戦」のキーとなる選手は誰か。日本サッカー史のベストゴールズ『Jリーグメモリーズ』などをプロデュースする批評家の石井紘人氏と、大阪体育大学スーパーバイザーを務め、スカウティングから林大地(シント=トロイデンVV)選手や田中駿汰(北海道コンサドーレ札幌)選手の動作の改善やコンタクトスキルの指導に携わった、北村公紀氏が対談した。
鈴木優磨、鎌田大地「選外」のワケ
《日豪戦の代表メンバーに、鈴木優磨(鹿島アントラーズ)選手や鎌田大地(Eフランクフルト)選手が選ばれなかった。これに、ネガティヴな議論が起きている。以前、鈴木選手は森保一監督へのファンの批判的なSNS発言に対し「いいね」したとされ、今回の代表発表会見ではメディアから、「代表活動に批判的な選手は外したのか」と質問が出た。もちろん、森保監督は否定したが...。ズバリ、今回のメンバー選考は妥当なのか。》
石井:一部のメディアやファンは、日本代表メンバー選考に「足し算」を求めているのだと思います。たとえば、「鈴木選手を選ぶと、こういったプラスがあるのでは」というように。でも、最終予選というシビアな状況の監督は、「引き算」にならないことを最も考える。「A選手が新型コロナに感染して出場できなくなったり、コンディションが上がらなかったりしたら、同じ特徴のB選手にしよう」と。鈴木選手は日本代表でシビアな状況を経験しておらず、未知数です。
堂安律(PSVアイントホーフェン)選手が選ばれなかった理由は、こう考えます。まず絶好調の伊東純也(ゲンク)選手が右ウイングのファーストチョイス。堂安選手は今年1月の中国戦で伊東選手に代わって途中出場しましたが、大活躍とはいきませんでした。そのため、セカンドチョイスは久保建英(マジョルカ)選手になったのだと思います。
鎌田選手も特徴を持った素晴らしい選手ですが、現在の4-3-3のシステムだとトップ下がなく、生かしにくい。さらに、鎌田選手が活躍したタイミングは、もしかしたらフランクフルト側に招集レターを出せるタイミングの後だった可能性があります。そういった意味では妥当ではないでしょうか。
北村:そうですね。このメンバーでカタールW杯に臨むわけではありません。オーストラリア戦でほぼ本大会の出場権を獲得するというミッションを、確実にやり遂げられる固いメンバー選考をしたのでしょう。
オーストラリアは、勝ち点3が欲しい。昨年11月のサウジアラビア(0-0)戦をみても、かなりの強度で立ち上がりからプレッシャーをかけていましたから、前から積極的に来る時間はあるでしょう。また、日本に先制点を奪われた後のパターンなど、いくつかのシミュレーションを行っていることが予想できます。昨年10月の対戦(日本2-1オーストラリア)は、4-3-3がハマりましたが、そう簡単ではないと思います。
「吉田麻也のパートナー」は誰
《オーストラリア戦でカギを握る3人の選手。石井氏と北村氏が挙げた名前は。》
北村:伊東純也選手は、縦への突破はもちろん、アーリークロスや中に切り込んでの左足でのシュートなどでフィニッシュに絡んでいます。オーストラリア戦でも、かなり期待できます。ただ、オーストラリアは、伊東選手のことをかなり警戒しているでしょうから、スペースを消してくる可能性はあります。
石井:私も伊東選手に期待しています。北村さんは、大阪体育大学の坂本康博名誉監督や夏嶋隆先生と共に動作解析に取り組まれていましたが、伊東選手の足のステップなどはどのようにスカウティング(分析)されますか。
北村:相手ディフェンスに引っかかっている時は、かなり近い間合いなのに、その間で強引に突破して引っかかっています。そういった時は、一つフェイントを入れるとより良いと思います。基本的には日本トップのスピードがあるので、間合いさえ間違えなければ、オーストラリア戦も活躍するでしょう。 ただディフェンスに行く時に、相手とのコンタクト時にスタンスが広くなりすぎているのは注意して欲しい。けがに繋がる可能性が高いので、ディフェンス時の足のスタンスは心配しています。
石井:ステップが悪く、スピードあってもけがに泣かされ続ける選手は多いです。伊東選手は順調ですから、気を付けて欲しいですね。
ステップという意味では、私は三笘薫(ユニオン・サン=ジロワーズ)選手にも期待しています。
北村:三苫選手はリーグ戦ではけがから復帰しましたが、どれだけコンディションが戻っているか。あの独特のドリブルの感覚が後半残り25分で出てきたら、オーストラリアにとっては脅威でしょう。
石井:北村さんの言うように、三苫選手はコンディションもありますが、独特のステップは対戦してみないと相手も読めないと思うんですよ。
私の最後の一人は、「吉田麻也(サンプドリア)選手のパートナーとなるセンターバック」です。オーストラリアはそこまで蹴り込んでこないと思いますが、空中戦や全体のラインコントロールは、試合のキーとなるはずです。
北村:それなら、クラブではキャプテンを務め、30歳と経験もある谷口彰吾(川崎フロンターレ)選手。あの安定感は、大一番にもってこいだと思います。ただ、コンディションもありますし、吉田選手と板倉滉(シャルケ)選手は東京五輪でセンターバックを組んでいるので、そこをどう見るかで変わってきます。
私が注目する3人目は、旗手怜央(セルティック)選手です。クラブで好調ですし、高いユーティリティー性もあるので、オーストラリア戦のようなシビアな試合でベンチにいるのは、監督としてはありがたいでしょう。
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対談は後編へ。カタールW杯で日本が「8強」を目指すうえで、「本大会で期待する3選手」の話題を中心に、2人のトークは続く。
北村公紀(きたむら・こうき)
1965年北海道生まれ。苫小牧東高校から大阪体育大学に進学し、坂本康博名誉監督に師事。卒業後は外資系製薬会社を経て、1997年に学校法人浪商学園に入職し、以後、大阪体育大学サッカー部の指導にあたる。夏嶋隆先生から、動作、「競り」、スポーツ障害の予防やケアを学び、坂本名誉監督・夏島先生と共に、実践的なプログラム開発や、選手の指導を行っている。現在はスーパーバイザーとして、チーム運営全般のサポート、教え子である松尾元太監督、福島充コーチ、松澤憲伸コーチのサポートと学生への指導を継続している。
また、河﨑護・前星稜高校監督の好意で、全国高校サッカー選手権含め、高校サッカーの指導を経験。その動作解析を駆使した相手エース封じ対策は、記者会見でも話題になった。