兵士や記者にも後遺症
実際のところ、戦争で最もメンタルに変調をきたすのは、兵士たちだ。ベトナム戦争では多数の米軍帰還兵が心的後遺症に苦しんだことはよく知られている。
『戦争とトラウマ――不可視化された日本兵の戦争神経症』(吉川弘文館)によると、日中戦争、太平洋戦争に参戦した日本軍兵士にも、精神的に傷を負った人が少なくなかった。戦前の国会質疑で、陸軍省の医事課長は、「欧米の軍隊に多い戦争神経症が一名も発症しないのが皇軍の誇り」と胸を張っていたが、実際には、千葉県の国府台にあった陸軍病院には50人以上の精神科医が配置されていた。1937年12月から1945年11月までに入院した精神神経疾患の患者は1万450人もいたという。
沖縄戦では14歳から17歳の少年約1000人が召集され、銃を持ち、ゲリラ兵として米軍と戦った。彼らのその後を追った『証言 沖縄スパイ戦史』 (集英社新書)によれば、約160人が亡くなったが、生き残った少年の中には戦後「PTSD」に苦しんだ人もいた。
トラウマは戦争を報道する側にも及ぶ。著名なジャーナリスト、ピーター・アーネット氏は著書『戦争特派員』(新潮社)のなかで、「ベトナムで仕事をしたジャーナリストの中には、仕事の面でも精神面でも後遺症が残った者が出たし、またベトナム経験があまりにも強烈だったため、平常の生活に適合しにくくなった者もある」と書いている。彼らの多くはニュース稼業から足を洗うか、国内支局に配置換えを求めて日常的なニュースだけを手がけ、二度と再び国際記者として復帰することはなかったという。