時は金なり 齋藤孝さんは達人らしくストップウオッチを手放さない

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「閑暇の人」になろう

   テレビで拝見する柔和な笑顔と、ストップウオッチを握りしめる「時間の鬼」との落差。正直、それが本作でいちばん印象に残った部分だ。人は見かけによらない。

   時間の管理、有効活用は自己啓発本の一大テーマである。齋藤さんは2000年前の哲学者を引用して、みなさんも「閑暇の人」になろうとビジネスパーソンを叱咤激励する。仕事に遊びにメリハリのある、彫りの深い日常を過ごしましょうよと。

   普通の人は仕事をしなければいけない。同じ働くにしても、時間の浪費を極力抑え、節約した時間で「閑暇」をひねり出す。ストイックに確保するからこそ、ゆるく使うことも許される...ざっくりそんな論理、というか感覚だろうか。

   さて私の半生はといえば、忙殺の人だった。要領はいいほうだが、ニュース相手の生活だからのべつ時間に追われていた印象だ。退職後は自由を持て余しつつ、人生の残り時間を計算するような暮らし。気がつけばツイッターにかまけている。孫からのラインにも「ひらがなしばり」で返さなければいけないし、ああ忙しい。

   これはまずいが、ストップウオッチを買うまでの覚悟は固まらない。とりあえずキッチンタイマーでも持ち歩こうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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