「備蓄品」は闇市で売られた
ちなみに陸幼では、8月15日の玉音放送の後、生徒監や下士官がトラックで倉庫から食料や衣類をどこかに運び去った。「これはアメリカ兵に渡さない。我々が再び立ち上がる時のために隠しておく」とのことだったが、この品物を使って生徒監の一人は戦後の闇市で成功したそうだ。このあたりの記述にも、「社会派」と「ミステリー作家」の一面がうかがえる。
西村さんは、子どものころから推理小説を愛読していた。戦後、いったん人事院に就職したが、29歳で退職。松本清張の『点と線』を読んで、このくらいなら自分でも書けると思ったのが作家を志したきっかけだ。
ところが、「読むと書くのは大違い」、あらゆる懸賞小説に応募したが落選が続いたと回想している。長い下積み時代は、パン工場の運転手、競馬場の警備員や生命保険の勧誘員、私立探偵などをしていたという。こうした経験も、のちのベストセラーに大いに役立ったに違いない。