「十津川警部」の生みの親で多数のトラベルミステリーで人気だった作家の西村京太郎さんが2022年3月3日、肝臓がんのため亡くなった。91歳だった。著書は500作以上。観光地や列車を舞台にしたエンターテインメント性の強い作品で知られたが、もともとは社会派作家。長い下積み時代があり、さらにルーツをたどると、陸軍幼年学校に行きつく。
社会派作家としてデビュー
西村さんは1965年、『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞を受賞し、推理小説作家として本格デビューした。報知新聞によると、この作品は当時、社会問題となっていたサリドマイド児の問題をテーマとしていた。
さらに、海洋開発問題が事件の鍵となる『伊豆七島殺人事件』や人種差別問題を扱った『ある朝 海に』など硬派の作品を発表したが、初版部数は落ちていったという。
そんな西村さんの「起死回生」の作品となったのが78年の『寝台特急殺人事件』。ただ、当時はブルートレインには全く興味がなかったという。きっかけになったのは、ネタ探しで東京駅に行った際に子供たちがブルートレインの写真を撮りに来ているのを見たこと。ここから40年以上にわたるトラベルミステリーの歴史が始まった、と同紙は解説する。
81年、『終着駅(ターミナル)殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞すると、人気に拍車がかかる。高額納税者番付では、7年連続で作家部門のトップとなったこともある。
当初は社会問題を扱う社会派作家を志したが、ちょっとした偶然からトラベルミステリーに転身し、大成功を収めることになったのが西村さんだ。