北京の冬季五輪が終わって、2030年の札幌冬季五輪開催問題が改めて話題になっている。すでに「本命」との報道もある。世論調査では北海道民の賛否は半々の状態だが、札幌市は粛々と開催に向けて地固めを進めている。
昨夏の東京五輪に加えて、今回の北京冬季五輪でも、五輪そのものや、関連する様々な矛盾が明らかになっただけに、開催ありきで準備が進んで切ることを疑問視する声も少なくない。
「既存施設を有効活用」というが
札幌市は21年11月、2030年冬季五輪招致に向けた計画を公表した。朝日新聞によると、これまで3100億~3700億円と試算していた開催経費を最大900億円削減し、2800億~3000億円とする。昨夏の東京五輪では開催経費の肥大化に批判が高まったことから、招致への市民の理解を得るため、既存施設を有効活用する方針だ。
共同通信は22年1月1日、「2030年冬季五輪、年内にも内定 札幌本命、IOCと協議」というニュースを特報した。IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長らと日本側が今後の開催地選定の日程などについて21年12月に水面下で協議し、IOCによる候補地の一本化の時期は22年夏から冬ごろと見込まれている、としている。
札幌は開催実績や運営能力への評価が高く本命視されており、今年中に事実上、開催が内定する可能性もある、住民の支持を得られるかどうかが鍵となる、と報じていた。
毎日新聞は2月19日、札幌五輪招致についての世論調査を公表している。「それによると、全国では「賛成」は45%で、「反対」の34%を上回った。「どちらとも言えない」は21%だった。北海道では「賛成」と「反対」が拮抗(きっこう)した。
手を上げる都市は少ない
札幌市の秋元克広市長は2月25日、北海道文化放送の番組「みんテレ」に出演し、2030年の冬季五輪の招致を目指す理由を、「次の世代を担う子どもたちに夢や希望を与えるため」とした。一方で、不安の声があることも踏まえ、「より多くの理解を得ながら進めたい。魅力ある街に発展するきっかけにしたい」と話した。
いわば既定路線として札幌開催が進んでいるが、実際はどうなのか。五輪問題に詳しい作家・ジャーナリストの山田順さんは2月10日、「ヤフーニュース個人」で「IOCだけが高笑い!札幌冬季五輪招致という『世紀の愚行』が日本の後進国転落を加速させる!」という手厳しい論考を発表している。
まず、「いまどき、IOC(国際オリンピック委員会)とスポーツ産業だけが恩恵を受け、開催地の市民が大損をするという五輪をやろうという"奇特な国"は数少ない。中国のような強権国家か、資源に恵まれた金満国家ぐらいしか、招致には手を挙げない」と指摘。30年に札幌のライバルとみなされている4都市は、いずれも反対運動など問題を抱えていることもあり、積極的に誘致活動に取り組む札幌はIOCの「一本釣り」にあう可能性が高いと分析する。
開催後にツケが税金に
札幌市は既存施設の利用などで経費削減の予定だ。しかし、山田さんは、それは簡単ではないと見る。
「東京五輪で明らかになったように、五輪は開催都市の持ち出しとなる。IOCの"五輪貴族"のために、開催国と開催都市は惜しみなくカネを使われ、そのツケは開催後、増税となって返ってくる」
「東京五輪の経費は、当初予算の7340億円の倍以上の1兆6440億円に膨れ上がった。この1兆6440億円でも足りず、実際には3兆円以上かかったと言われている。しかも、開催都市は『カネは出しても口は出せない』ため、IOCの意のままにぼったくられた」
「1998年の長野冬季五輪では、関連経費を含め1兆5000億円以上の費用がつぎ込まれたとされるが、その後、会計簿が破棄されていたことがわかり、いまだにいくらかかったか判明していない。ただ、大幅な赤字だったことは間違いなく、長野市は694億円の市債を返すのに約20年かかった」
さらに山田さんは、1972年の札幌五輪と、2030年の日本との社会状況の違いも指摘する。72年当時は、日本経済は絶好調。札幌ではインフラ整備が進み、五輪の競技施設とともに大通り公園が整備され、地下鉄も開業した。しかし、2030年の札幌は、インフラ整備の予算にも欠くような状況に陥っている可能性がある、とし、以下のように指摘している。
「五輪を開催すれば、札幌はますます貧しくなるだけ。日本の先進国転落を加速化させるだけだ。2030年の札幌は、1972年の札幌とはまったく違うことに、招致を推進する人々はいくらなんでも気づくべきだろう」