雪の思い出 室井滋さんが語る半世紀前の故郷富山は...温かい

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お国言葉が効果的

   濃淡はあろうが、生まれ育った土地へのノスタルジーは万人共通だと思う。室井さんのこのエッセイも、雪景色の中にあった2月の故郷を懐かしみながら淡々と綴る。

   本作のカギになるフレーズを一つ選ぶなら、「小さな街の中に、取り敢えず生活に必要なものが詰まっていた」というくだりだ。そんな世界を、冷たくて温かいという意味で「かまくら」に喩えたセンスにも敬服した。冬の街のぬくもりは、地域の濃密な人間関係に由来し、入り込まなければ実感できないものなのだろう。

   「古き良き故郷」を演出するうえで、祖母や母との短いやりとりに登場する富山弁は効果的だ。気候とお国訛りは、地方を地方たらしめる重要な要素である。土地の言葉はこの半世紀、全国どこも標準語にすっかり浸食されているだけに、読者が馴染みのない言葉でも、いや、なじみがないゆえに懐かしさを覚えることになる。

   「白魔」という表現があるように、雪は日常生活にとって憎いやつだ。降って喜ぶのはワンコと都会の子どもだけかと思っていたので、室井さんが「楽しい」と回顧したのは意外だった。確かに、積雪による不便は大人がなんとかしてくれる。物心ついて5年やそこらの小学生なら、雪はまだ非日常の「風物詩」だったのかもしれない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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