オミクロン株による新型コロナウイルスの死者が急増している。2022年2月15日から3日連続で200人を超えた。ところが重症者の数はあまり増えていない。重症者数に比べると、死者が異常に多くなっている。なぜなのか。
「いきなり重症化」
NHKのまとめによると、デルタ株による第5波で死者が最も多かったのは2021年9月8日の89人。この時の重症者は、2211人だった。ところが、第6波では22年2月17日、死者271人に対し、重症者は1469人。オミクロン株は、死者の数が多いのに、重症者の数は少ない。
そもそもオミクロンは軽症が大半と言われていたのに、なぜこんなに死者が増えるのか。
西日本新聞は17日、「『いきなり重症化』 第5波の3倍...オミクロン株で死者が最悪ペース」という記事を公開している。
それによると、第6波では70代以上の死者が9割を占め、第5波の7割を上回っている。また、大阪府の調査では、重症者に占める70代以上の割合は、第5波は18.4%だったのに対し、第6波は67.7%。死者も重症者も、オミクロンでは高齢者に集中していることがはっきりしている。
「持病の悪化」というリスク
さらに同紙は、広島県の調査を引用している。それによると、発症から「中等症2以上」へ3日以内に移行する人は第5波で約10%だったが、第6波は約35%になっている。「中等症2以上」になる人の多くは高齢者だ。すなわちオミクロンでは、発症してから短期間で「中等症2以上」に移行する高齢者が多くなっていることがわかる。
同紙は、「オミクロン株のウイルスはのど付近にとどまり、デルタ株のようなウイルス性肺炎を起こしにくい半面、高齢者らに感染が広がり、腎臓や呼吸器の持病が悪化して死期が早まるケースが相次ぐ」と指摘している。
デルタ株は「肺炎」という形で全世代を襲った。しかし、オミクロンは「肺炎」がなくても、高齢者にとっては「持病の悪化」というリスクが高い、というわけだ。しかもそれは短期間で進行する。その結果、「重症者」として把握される前に亡くなっている高齢者が多数存在している可能性がある。
警察庁によると、1月の1か月間に新型コロナウイルスに感染し、自宅で容体が急変するなどして死亡した人は全国で151人。ほとんどが高齢者だった。
もはや「別の病気」に
別な角度から問題点を指摘する学者もいる。東京大学大学院情報学環准教授の伊東乾さんは2月10日、「実は死亡者の多いオミクロン株、軽症・弱毒は大うそ」という刺激的な論考をJBpressで公開している。
伊東さんは、「コロナ病棟は『軽症』『中等症』患者であふれ返っている。そしてそこで高率に死者が出ている」ということに注目する。重症者でない人が亡くなるというのはどういうことか――。
その理由は、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症COVID診療の手引き」にあると伊東さんは見る。「診断分類」は以下のようになっている。
○軽症:酸素飽和度96% 肺炎所見なし 呼吸困難なし
○中等症1:酸素飽和度93%~96% 肺炎所見 呼吸不全なし
○中等症2:酸素飽和度93%未満 肺炎所見 呼吸不全あり
○重症:呼吸不全。集中治療室/人工呼吸器が必要
要するに、「肺炎」の重症度合いを軸に患者を分類している。この観点に立てば、肺炎になりにくいオミクロンは確かに「重症者が少ない」。しかし「実際、死んでるわけです。重症にもならないのに、なぜ?」と伊東さんは問いかける。
それは、オミクロン感染が、肺炎など起こさずとも、高齢者や糖尿病などの合併症、既往症のある患者がコロナ病床数を上回る勢いで急増しているからだという。そうした患者は現在の「新型コロナ肺炎」という分類では、軽症・中等症のまま。しかし、生命に危機が及んでいるというわけだ。
伊東さんは、オミクロン変異新型コロナウイルス感染症は、すでに「新型コロナ肺炎」ではないと強調する。
「この病気は、生活習慣病など多様な合併症、既往症と相俟って、第5波以上に高い致死率を示しており、永続する後遺症も懸念される、別種の疾病になっている」
したがって国は、新型コロナウイルス感染症の診断基準を、抜本的に再検討する必要があると指摘している。