北京冬季オリンピックは早くも後半に入った。
開催国の中国は夏季競技に比べると冬季競技の影が薄く、2018年の平昌大会では金メダル1つにとどまっている。メンツがかかる今大会では、全15競技に176人の選手を送り込んだ。メダル獲得、あるいは競技参加のために切り札となっているのが帰化選手だ。
谷愛凌人気でサーバーダウン
五輪出場のために国籍を変える選手はそれほど珍しくない。日本で最も有名なのは、2011年に国籍をカンボジアに変更し16年にリオ大会出場を果たしたタレントの猫ひろしさんだ。
卓球王国の中国では、層の厚い母国で勝ち残れない選手が、国籍を変えて五輪を目指す。リオ大会ではドイツの代表女子3人中2人、シンガポールに至っては3人中3人が「元」中国人だった。レベルが急激に上昇している日本でも、16年世界選手権団体戦日本代表の浜本由惟選手が、五輪出場のためにオーストリア国籍取得を希望していることが19年に報じられた。
北京大会に参加している中国選手の中にも、帰化選手が少なくない。ウィンタースポーツの歴史が浅いながら、開催国の「威信」を示す必要がある中国にとって、帰化選手は手っ取り早い強化策になっている。
その代表が、フリースタイルスキーの谷愛凌(英語名:Eileen Gu)選手だ。米国人の父と中国人の母を持つ谷選手は、米カリフォルニア州で生まれ育ち、2019年に15歳でワールドカップ(W杯)初優勝。同年、中国代表への転身を表明し中国籍を取得した。
モデルとしても活躍する容姿、複数の金メダルが期待できる強さ、さらには五輪後にスタンフォード大への進学が内定する才媛ぶり。非の打ち所がない経歴で谷選手は大会前から絶大な人気を誇り、8日の女子ビッグエアでは期待通り金メダルを獲得。直後にSNSのウェイボに祝福コメントが殺到し、サーバーが一時ダウンするほどだった。
西洋人の顔つきをしたチーム
一方、五輪開幕直前に代表選手が発表され、騒然となった競技がアイスホッケーだ。帰化選手が男子代表25人のうち15人、女子代表では23人のうち13人で、合計すると48人中28人と過半数を超えた。
ある中国メディアは「代表の中に西洋人の顔つきをした選手が多く見られ、その割合は(帰化選手が多いことで知られる)男子サッカー中国代表も足元に及ばない」と驚きをもって伝えた。
中国は開催国枠で出場するが、自国選手だけでは競技力が五輪の水準に届かず、強豪国の米国、カナダを中心に選手をかき集めたとみられる。
国民の帰化選手への反応はさまざまだ。谷選手が国民的アイドルのような扱いを受けるのに対し、米国生まれで18年に中国籍を取得したフィギュア女子シングルスの朱易選手は、団体戦で何度も転倒し、「親のコネで出場権を得た」「恥さらし」と誹謗中傷を受けた。
アイスホッケーの帰化選手もチームの特異さは自覚しているようで、複数の選手がSNSや取材で中国愛をアピールし、国民の支持を得ようとしている。
男子チーム主将で、カナダ出身の葉勁光選手(カナダ名:Brandon Yip)はウェイボに「150年前に私の祖先がカナダに移住した。しかし我が家系は中国ルーツであることを忘れてこなかった」と投稿した。 実は2018年の平昌大会で、開催国の韓国のアイスホッケーチームには外国出身選手が20人いたが、大会後には大半が出身国に戻った。
中国は二重国籍を認めていないが、帰化選手がどのようなプロセスで中国国籍を取得し、代表に選ばれたかは不透明で、谷選手らは二重国籍疑惑もささやかれている。選手と中国が愛国心で結ばれているのか、それとも単なるビジネスパートナーなのかは、大会終了後に明らかになるだろう。
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