企業公式ツイッターは、さまざまな理由から運用が止まったり、アカウントが閉鎖したりする。ダイキンの認定販売施工店「ダイキンプロショップ」であるアタゴ空調設備(東京都板橋区)も2019年3月4日に突然、「休止」宣言したアカウントの一つ。「アタゴさん」がトレンド入りするほど、多くのフォロワーが別れを惜しんだ。
その後、一切の投稿がなくなったが20年11月2日に運用再開。休止当時の担当者が現在まで続投している。アカウント休止に至った原因、復帰後に感じた運用の難しさを取材した。
ツイッターで「売り上げ」伸ばす難しさ
【アタゴ空調設備株式会社】冷凍冷蔵・業務用エアコンの販売・施工・修理・保守を請け負う。地場である東京都板橋区の商店街や食処、駅、写真スポットなどの紹介ツイートが多い、「板橋区」応援アカウント。毎朝や終業時の挨拶や、日常のツイートに必ずと言っていいほどキーワード「板橋」を入れている。17年6月にアカウント開設。
担当者は営業事務として、見積もりをはじめとした各種資料作成、社内パソコンの管理などを行うかたわら、ツイッターを手がけている。
運用当初は、現在では10万前後のフォロワーを抱える人気アカウントや、数々の有名企業がツイッターを始めたばかりだったという。そうした企業公式たちと「同期あるいは、自分が先輩として積極的に関わり、リプライし合える立場だった」ため、頻繁にイベントを共同企画したり、コラボキャンペーンを打ったりしながら、アカウントを育ててきた。
しかし「数か月先まで他社公式とのコラボ企画を予定しており、まさにこれからだ!」という時期に突如、休止宣言した。
同社の主なサービス対象は業務用設備であるため、「例えば、一度エアコンを交換したら次に依頼が来るのは10年後というスパン」。ツイッターを介して仕事を受注することもあったが、こうした事情で「バンバンくる、というほどではなかった」。ツイッターを売り上げにつなげるのは、一筋縄ではいかない。
「『予算を取ってプレゼントキャンペーンを実施する意義や、関東が営業エリアなのに全国に向けて情報発信する意味とは何か』と社内で議論になったのです」
担当者は日々の運用データを取り、報告・連絡・相談をこまめにしていた。しかし「会社のためにやっている仕事なので、会社が必要性に疑問を持っているなら、続けるのは厳しい」。アカウント休止提案を受け、1週間ほど考えた後、「一旦、運用をやめよう」と決断した。
社外の人が見てくれていた
1年9か月の休止期間を経て運用再開した背景には、「社外からの反応」があった。
「社長の耳に、営業先や取り引き先からの『何故ツイッターをやめたの?』『投稿を見ていたのに』と惜しむ声が届いたそうです。それで『もう一度やってみてほしい』と言われました」
ツイッターは「全国に向けた情報発信」だ。「全国」には、板橋区も含まれる。同社代表取締役社長が「ツイートが、近場(地元)の顧客にしっかり届いていた」と実感し、眠っていたアカウントに可能性を見出した。
担当者も運用に「未練のような気持ちがあった」。そこで、打診を受けてから2か月後の20年11月、何の前触れもなく「しれっと再開宣言しました」。ツイートに何の反応も寄せられなかったらと不安があり、「におわせ」や、知り合いの他社公式に予め事情を伝えることはしなかったが、ふたを開けてみれば杞憂だった。リプライ70件、いいねは500近くにのぼった。
歓迎されての再出発となったものの、「休止前に仲良くしていたアカウントがなくなっていたり、担当者が変わっていたりして、いわゆる浦島太郎状態でした(笑)」。コロナ禍では気軽に他社の担当者と会いづらく、情報交換や交流がしにくい。「2年弱の間に、企業公式のノリがよりフランクになった」と変化も感じ、初めは戸惑ったが、運用スタイルを無理に変える必要は無いと思い至った。
「休止前に投稿やリプライ、企画を地道にやっていたのが効いて、ありがたいことに運用再開につながりました。それなら、手法は以前と同じで良いはずだろうと」
担当者は、運用目的の一つに「板橋区内の企業公式や、全国の空調設備関係のアカウントとの結びつき強化」を掲げている。例えば、北海道に住むフォロワーから「空調設備の修理」を依頼されてもアタゴ空調設備では対応が難しい。しかし、もし信頼できる空調設備会社が同地にいれば仕事を紹介できる可能性がある。その逆も然りだ。全国へ向けて情報発信し、認知度を上げ、交流を通じて知り合いを増やす意味が出てくる。
「現在も、そこまで多くの受注をツイッター経由で取れているわけではない」と担当者。それでも、「アタゴさんのおかげで板橋区が身近になった」と声を掛けられると励みになるそうだ。地元と深く結びついた運用は、アカウントの個性といえる。「板橋区と言えば、アタゴ空調設備」と印象づけることは、縁と商機を引き寄せる第一歩だ。