昭和の名店がまた一つ、姿を消す。東京都心にある純喫茶「カフェ ド カナール」(以下、カナール)が、2022年2月28日に閉店する。
JR新橋駅前にある「ニュー新橋ビル」で51年間、親しまれてきた。閉店を決めた店主に、インタビューした。
名物「アイスド」は残したい
カナールを訪れると、入口横の壁に「カナール閉店のお知らせ」との張り紙を見つけた。「続けていくことが困難になりました」、「移転も含めて模索中です」、「閉店情報を拡散して頂ければと思います」と書かれている。
平日朝10時。この時間でも店内は半分近くの席が埋まっていた。どこか落ち着く雰囲気だ。忙しそうにオーダーをとるアルバイトが1人。そして、カウンターに立つ女性店主に話しかけた。閉店は、人材不足が原因だという。
一方で張り紙には、移転を検討しているとも書かれていた。店主にそのことをたずねると、看板メニュー「アイスド」への思いを語り始めた。
アイスドとは、店主オリジナルのガムシロップと4種類の豆から入れたコーヒーの上に、ごく少量の砂糖入りのホイップクリームが乗るドリンクだ。創業当時から変わらない味。少し斜めになった珍しい形のジョッキに注がれる。これは「一点もの」で、同じく創業当初からのこだわりの品だ。酸味とコクがありつつも、スルッと飲める。
アイスドはカナールでしか飲めない。アイスドを求めて、季節を問わずに飲みにくる常連客もいるほどだと、店主は明かす。
そのために、「なんとかアイスドだけでも残せないか」との考えから、張り紙に書かれていたように「移転も含めて模索中」という考えに至った。
店主の優しい人柄
貼り紙についてもうひとつ、「閉店情報を拡散して頂ければと思います」についても質問した。
店主によると、開店当時から通ってくれた常連に知らせたいとの思いから、2021年11月から掲載しているという。「なじみの味、店が気づいたらなくなっていたって、悲しいじゃないですか」。店主の優しい人柄がうかがえるひと言だ。
ただ、閉店後はいまのところ未定。アイスドを、カナールの味を求めてやってきた人を落胆させたくないとの思いも強い。アイスドは残すが、「誰かに店を引き継ぐとは、考えていません」。