北京冬季五輪で、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と中国政府との蜜月ぶりが話題になっている。北京市内にはすでにバッハ会長の胸像が立てられた。中国の前副首相に性的関係を強要されたと訴えていた女子テニス・彭帥選手とは、夕食や観戦をともにしながら親密さを増すなど、中国政府の意向に沿ったとみられるパフォーマンスも目立っている。
高さ2メートルの像
銅像は2022年1月15日に完成した。高さ72センチのブロンズ像。台座も含めると2メートルにもなる。設置された公園は、2008年の北京夏季五輪を記念してつくられたものだ。すでに近代五輪の創始者・クーベルタン男爵や、IOCの元会長であるサマランチ氏やロゲ氏の銅像が置かれている場所に新たに仲間入りした。
習近平国家主席とは1月25日に会談した。北京の釣魚台迎賓館。ブルームバーグによると、習主席と外国の要人との直接会談は、新型コロナの影響でしばらく途絶えており、2020年3月以来とみられている。いかにバッハ氏が重視されていたかがうかがえる。
朝日新聞によると、習氏は「中国が北京冬季五輪を開催することは、中国人民のみならず国際社会の支持も得ている」とし、米英などの外交ボイコットの動きを牽制した。
バッハ氏は、「冬季五輪に初めて代表団を派遣した国もあり、北京五輪は幅広い支持を十分に得ている。国際社会もスポーツの政治化には反対している」などと述べたという。
共に五輪競技を観戦
そのバッハ氏が大きな役割をはたしてきたのが、「彭帥問題」だ。昨年11月と12月、中国共産党の元高官から性的関係を強要されたと告発していた著名なプロテニス選手の彭帥さんとオンラインで会談。彼女の「無事」を会長自らが確認し、北京で直接会う約束をしたとも明かしていた。
ANNによると、IOCは、バッハ氏と彭帥選手が2月5日に北京で夕食を共にしたことを明らかにした。「オリンピアンとしての経験」を語り合い、彭帥選手はIOCとの対話の継続にも応じたという。
彭帥選手は7日までに、フランスのスポーツ紙のインタビューに応じ、「私は誰かに性的暴行を受けたとは言っていない」と、性的関係の強要を否定したという。
バッハ氏と彭帥選手は8日、五輪競技を観戦した。彭帥選手がフリースタイルスキー・女子ビッグエアの決勝会場で、バッハ氏と談笑している姿が確認されたという。TBSは「中国側としては彭帥選手が制限なく自由に行動できるとアピールし、国際社会からの懸念を払しょくする狙いがあるとみられます」と報じている。
「矛盾」を体現
北京五輪を成功させるという共通の目的のために、手を結ぶバッハ氏と中国政府。読売新聞によると、IOCは昨年12月2日、彭帥さんと前日に2度目のテレビ会見を行ったと発表。そのとき、IOCの行動は「水面下の外交」に匹敵するものだとし、「そうした手法は、多くの政府や他の組織の経験から、このような人道的問題において、最も効果を上げると期待できるやり方なのだ」と発表している。
政治とスポーツは別、と主張するIOCだが、今回の「彭帥問題」では人道的と言いつつ、かなり政治的な動きをしていることが読み取れる。
河北新報は2月7日、「なぜバッハ会長は嫌われるのか」というコラムを掲載。筆者の共同通信・井上将志記者は「筆者がIOCを担当した過去5年余りでバッハ氏の言動から感じたのは『矛盾』の一言に尽きる」と突き放している。
崇高な理念を説きながらもカネまみれになっている五輪と、それを差配するIOC。その矛盾を体現するのが「ぼったくり男爵」の異名をとったバッハ氏、ともいえる。