若者よ聞け 土屋賢二さんの冗談アドバイス「長生きを軽蔑せよ」

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勘違いのリスク

   多くの老人の特技というか趣味は、若年へのアドバイスである。体力が衰えても、高齢者にはもれなく人生経験が残り、成功も失敗も、とうの昔に完結したサンプルとして何層もの記憶にしまい込まれている。それを適宜引き出し、悩める若者に無償でヒントを与える。うまく機能すれば、社会的にも有益ではなかろうか...と、ここでは書いておく。

   77歳の土屋さんは、お茶の水女子大学名誉教授にして哲学者。ご自分でも示唆しているが、これほど助言に適したピカピカの属性も珍しい。もっともコラムの大半は冗談で、最後の「老人のアドバイスには耳を貸さないこと」が全てをひっくり返す。ごく少数にせよ、真面目に読み進めてきた読者も一緒にひっくり返るに違いない。

   しかし私は、この最後のメッセージに一筋の光明を見る。それは、年長者のアドバイスはしばしば善意を装った自己満足に終わる危険があるためだ。

   人生の先輩として、また職場の上司として気をつけたいのは、酒席での自慢話である。もっとダメなのは呼び出しての説教、最悪は満座における批判だろう。どんな善人も、こうした勘違いのリスクから自由ではない。

   ならば助言者として世の中に貢献しようとか、余計なことは考えないようにしたい。これは自戒を装った、同世代へのアドバイスである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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