「ソルクレスタ」誕生を支えた男の友情 企業の枠を超えたアツい信頼

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【J子が行く】J-CASTトレンド記者「J子」とその同僚たちが、体を張って「やってみた、食べてみた、行ってみた」をリポートします。

   ゲームメーカーのプラチナゲームズ(大阪市)が2022年2月22日に配信するシューティング「ソルクレスタ」。総監督を務める、同社副社長/チーフゲームデザイナーの神谷英樹さんにインタビューし、前編ではソルクレスタの世界観や、誕生秘話を紹介した。

   前作にあたるシューティング「ムーンクレスタ」(日本物産/1980年)、「テラクレスタ」(同/1985年)で月と地球を奪われた人類が「ソルクレスタ」という組織を結成し、太陽系奪回をかけて侵略軍に戦いを挑む物語だ。しかしプラチナゲームズは両作品の権利元ではなく、続編を作る権限を持たない。この壁を神谷さんはどう乗り越えたのか。

  • (左から)ハムスターの濱田倫代表取締役社長、プラチナゲームズの神谷英樹副社長
    (左から)ハムスターの濱田倫代表取締役社長、プラチナゲームズの神谷英樹副社長
  • 「ソルクレスタ」キービジュアル
    「ソルクレスタ」キービジュアル
  • (左から)ハムスターの濱田倫代表取締役社長、プラチナゲームズの神谷英樹副社長
  • 「ソルクレスタ」キービジュアル

企画書を書き上げたのに「迷い」が

   ソルクレスタプロジェクトの起こりから、企画書の完成までを、熱を込めて語った神谷さん。しかしふと真面目な顔つきになり「考えてもみてください」とつぶやいた。

「『こんなことをやりたい』という気持ちを詰め込んだ企画書を作ったはいいですが、ムーンクレスタとテラクレスタの生みの親に当たる日本物産、そして現在の権利者であるゲームメーカー・ハムスターと、プラチナゲームズとは何ら関係がなく、続編を作る権限もないんですよ」

   そこで神谷さんは、稲葉敦志社長に、(1)オリジナルの世界観とキャラクターを考え、自社IP(知的財産)として制作する、(2) ムーンクレスタとテラクレスタの流れをくむ「クレスタ・サーガ」を作る、との二案を相談した。

   自社IPを手がけることは、プラチナゲームズの会社設立時からの悲願だった。しかし稲葉氏は「クレスタシリーズにした方が面白いじゃん」と即答した。

「そのときに、ああそうだな、クレスタサーガでいくべきだなと確信できたんです。自社IPにこだわらず、『ユーザーに送り出した時に面白いかどうか』を第一にした結果です」

   ただそれは、ハムスターに許可を得なければ企画を進められないと決まった瞬間でもあった。

   神谷さんはもともと、ハムスターと親交があった。同社による、古き良きアーケードゲームの名作を忠実に再現するシリーズ「アーケードアーカイブス」や、毎週木曜夜の「ニコニコ生放送」公式番組「アーケードアーカイバー」のファンなのだ。その縁で、ハムスターの濱田倫社長と食事したり、同番組に出演したりしている。

   ただ、神谷さんに言わせればこれらは「あくまでプライベートでの交流」。仕事の話を持ち出せば、築いてきた信頼関係がなくなる恐れがあると考えた。濱田社長が並々ならぬ熱意をアーケードアーカイブスに注いでいると知っているからこそ、「勝手に一人で盛り上がって作った企画を見せて失礼に当たらないか。面白いと思われないのではないか。このまま何も言わずに、仲の良い関係のままでいたい」と弱気な考えも胸を過ぎった。

「でも、『どうしても一度、話だけでも聞いていただきたい』と、ハムスター社にうかがってソルクレスタの企画書をお見せしました。濱田さんが内容に目を通している間は、すさまじいまでの緊張に押し潰されて、生きた心地がしませんでした。この時間が無限に続くのでは、とさえ思ったほどです」
神谷さんがハムスター社に持ち込んだソルクレスタの草案
神谷さんがハムスター社に持ち込んだソルクレスタの草案

   真剣に草案を読み込んだ濱田社長はその後、「応援します!」と快諾。制作協力企業として、ハムスターがプロジェクトに参画した。

「シューティングゲームとしては異様」なシナリオ

「メーカーやユーザーの信頼を裏切るようなものは作れない」

   濱田社長に背を押された神谷さんが真っ先に感じたのは、「今までにないプレッシャー」だった。ムーンクレスタとテラクレスタの名を汚してはならない、「クレスタ」シリーズを愛するファンを落胆させる作品にはできないと覚悟を決め、制作に取りかかった。

「過去に手掛けてきたゲームと同じ熱量でシナリオを書き上げたところ、ゲーム中、キャラクターがほぼしゃべり続けるボリュームになりました(笑)。シューティングゲームとしては異様だと思います。話自体はシンプルで、燃える内容なんですけどね」

   ストーリーは、自身の原体験を生かして考案した。特に、アクションシューティングゲーム「重装機兵ヴァルケン(メサイヤ/1992年)」、3Dシューティングゲーム「スターフォックス64(任天堂/1997年)」をバイブルとしたそうだ。両作品には「襲い来る敵を撃ち、ハイスコアを目指す楽しさだけでなく、仲間との出会いや別れ、ライバルとの熱い戦いなど、重厚な物語があった」。先人たちが手がけた数々の素晴らしい作品が心の中にずっとあり、ゲーム作りのヒントとしてたびたび役立てているそう。

   神谷さんが書き下ろした、太陽奪回を目指す「絶体絶命の状況からの逆転劇」を味わうにはソフトに加え、追加コンテンツ「ソルクレスタ ドラマティックDLC」の購入が必要になる。

   ドラマティックモードの紹介動画(BitSummit THE 8th BIT生配信で公開された)を見ると参號機にはパイロットと一緒に、ある動物が乗っている。

J子「『ハム子』という名前の、ハムスターですね」
神谷さん「はい、そうです」
J子「ハムスターと言えば、これまでのお話に何度も出てきた企業名なのですが、もしかして神谷さん...『そういうこと』なんですか?」
神谷さん「そう、です、ねぇ...」

   意味ありげにほほえむ神谷さん。ふと、真剣な表情になり「ソルクレスタはやっぱり、濱田さんが理解を示し、応援してくれないことには走らなかったプロジェクトです。本当に、心から感謝しています」。続けて、

「だからこその『ハム子』かもわからないですけどね」

とはにかんだ。

   ハムスター・濱田社長にも取材した。しかし、なんと、「ノーコメントです」。「僕みたいないちプロデューサーが、神谷さんが手がける作品にコメントを寄せるなどおこがましい」そうだ。そのうえで一言、こう述べた。

「僕はただ、神谷さんが作りたいように作ってくださることをワクワクしながらお待ちしています」

   信頼がゆえの「ノーコメント」。企業の枠を超え、深く結びついた二人の関係が見て取れた。

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